1話 ページ2
「分かってたけど。」
名前を告げずとも、
魂の形なんてそりゃあもう。
同じく魚であるあの3人と、
同じ寮にならないはずもないわけで。
「カジキちゃんじゃーん、
春のホリデーぶりィ〜」
「Aさん。
あなたも来られると思っておりましたよ」
この気分屋はフロイド･リーチ。
ウツボの人魚。
端的に言ってヤバイ。
それからフロイドとほぼ同じ造形のくせに
待とう空気は真反対なのが
ジェイド･リーチ。
皆この柔らかな物腰に騙されてはいるが、
私に言わせればフロイド並にタチが悪い。
ちなみに彼らは双子？というか兄弟だ。
「おや、お久しぶりですね」
クイ、と眼鏡を押し上げながら
書類片手に私に声をかけているのは
アズール･アーシェングロット。
タコの人魚である。
全員先輩であるこの3人のことを、
初っ端から堂々と紹介できるなんて
お前は一体なんなんだと言われるかもしれないが、
ただ単に同郷と言うだけである。
回遊魚である私とはいえ、
ガッコには通わなければならないので。
くっそ寒かったけれども
何とか通いつめたあの年月。
気分屋すぎるフロイドから逃げ回り、
それを笑顔で窘める(フリ)のジェイドを罵り、
契約の対価に助けようと微笑む鬼畜に怒鳴り。
そう、
何を隠そう、
私はこいつらが嫌いである。
「また楽しくなるねぇージェイド〜」
「フロイド
あなたではAさんには追いつけませんよ」
「先に締めちゃえばいけんじゃね〜？」
楽しいのは貴様らだけだ！！！！！
そう怒鳴ろうかと思ったが、
そうだった。
本気で逃げればこんな魚共に、
捕まるような私では無いのである。
そう、逃げ出してしまえば私は、
一切関わらずに住むわけで。
まぁ自室が一緒な時点で大打撃だけれども。
「そうとも限りませんよ」
その私の慢心を打ち消したのは、
未だ書類とにらめっこ状態のアズールだった。
「我々は先に人型になれていますが、
Aさんはこれからですしね。
それに、カジキの形でなければ
歩幅の優る
あなたがたに理があるかと。」
「えっ？！」
ひく、と頬が引きつった。
言われてみればここは水中では無い。
当然、泳ぐことは不可能なわけで。
歩き方は、習ったけど。
練習、したけど。
どうやってはやくすすむの？
「あははァ、カジキちゃん、
追いかけっこしよっかァ」
にたぁ、と浮かべられた獰猛な笑みに、
私は蹴っ躓きながら逃げる羽目になったのだった。
「もう海に帰る！！！」
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作者名：よく骨を折る田中 | 作成日時：2020年6月30日 22時
