36話 ページ37
最近のカジキちゃんはいつも獣臭い。
サバナクローの寮生と
走る練習をしているのだから、
僅かに匂いがついていても仕方がない。
仕方がないのだけれど。
今日は一段と強。
しかも知らない匂い……??
会話したくらいではつかないだろう濃い匂い。
ジェイドと視線が交わった。
「カジキちゃんすっげぇ獣臭ぇ〜」
と話を振れば、
何の躊躇いもなく
彼女は食堂での経緯を語った。
なんか細すぎるって言われて腰とか腹とか、
肉全然ついてないからちゃんと運動しろとか、
体が弱いんだったら
無理はするなとか。
言われただけですよ。
あと白すぎるとか言ってたくらいかなぁ……
まぁ女だし仕方ないですけど。
いやぁほんとオカンですよあの人。
是非とも嫁に欲しい〜
なんて笑っているカジキちゃん。
無性に苛立ってきて、
名前も知らない相手を
脳内で3度ほど絞め殺した。
最近おかしいのだ。
カジキちゃんが楽しそうに笑うほど、
そこに自分がいないほど、
なぜだか
その笑顔が消えればいいのにと思ってしまう。
海にいた頃はそんなことは無かったのに。
思えば去年1年は、
ホリデーが待ち遠しくて仕方がなかった。
だからアズールに、
カジキちゃんも呼ぼうよと提案したのだ。
彼女はオンナ。
知っているのはオレたちだけ。
サバナクローの寮生も、
今日カジキちゃんと昼飯食ってた奴らも、
この学園の誰も知らない事実。
オレたちだけ。
そう思うと少し苛立ちが和らぐ気がした。
黙っていれば誰にもバレない事実。
アズール印の変身薬。
オレたち人魚からヒレとエラと、
人魚であるが故のその他もろもろの代わりに、
足や肺を与える薬。
カジキちゃんのはアズールの特製だ。
彼女のメスの匂いを、
オスのそれに書き換えるように作ってある。
サバナクローの獣共も、
もちろんオレたちウツボの嗅覚でも分からない、
強い上書き。
オレたちの鼻はもちろん、
図書室の図鑑を読み漁って研究した結果。
誰にもバレることの無い、大切な秘密。
そんなことを考えていると、
ぱあ、と表情を明るくしてカジキちゃんが言った。
「ねぇみんな、私走れるようになった!」
浮かんだのはすげぇじゃんでも
おめでとうでもやっと?遅いね、
なんてからかいの感情でもなく。
じゃあまたあの頃みたいに、
追いかけっこできるね。
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作者名:よく骨を折る田中 | 作成日時:2020年6月30日 22時