４４ー２(エサに釣られて) ページ38
「エリザベス、遅くなってすまない。今帰った」
"桂さん、お帰りなさい"
根城としている長屋の近くで買い物帰りのエリザベスと鉢合わせた。
「お前も今帰ったのか？トイレットペーパーはちり紙交換かバラ売りのものでいいといつも言っているだろう。まったく仕方のない奴だな」
"桂さんもちり紙交換の日にバラ売り買ってきたじゃないですか"
「多すぎると困るが一つや二つくらい予備があってもいいだろう？もしかしたら入ったトイレでトイレットペーパーが切れているかもしれんだろう」
"持ち歩く気ですか"
トイレットペーパー談義で盛り上がっていると不穏な気配を感じ取った。
「エリザベス！！」
"！？"
エリザベスを突き飛ばし、月明かりに煌めく白刃から回避した。
しかし白刃は一つではなかった。
「くっ！？」
"桂さん！！"
羽織が家屋に縫い止められ、更に白刃が迫る。
抜刀して防ぎ、即座に立ち上がると布地が破れる。
「お前の言ったとおりだな！」
月を背に屋根から飛び降りてくるその人影は、軽やかに着地すると一気に抜刀し、俺のもとへと駆け抜けた。
『言ったでしょ、暗殺に来るから餌になれって』
「なぜ来るとわかった？」
『わかってるくせに。私ならそうするからだよ』
「相変わらずだな」
Aの峰打ちで倒れた敵を除けば残りは6人か。
お互い距離をとり、牽制しあっている。
黒マント、間違いなく悪鬼羅刹の組織だ。
『ヅラ兄、生かして捕らえられないかな』
「あの様子だと捕まえてもどれほどもつかわからんぞ」
フードの下では男たちが息を荒くし、脂汗が滲んでいる。
「やはり毒か」
『うん。定期的に薬を摂取しないといけないんだよ、きっと』
その推測は恐らく当たっているだろう。
『悪鬼羅刹は居ないのか、近くで見ているのか……』
「近くにいるはずだ。お前の予想通りなら俺を始末したいはずだからな」
奴を討ち、この攘夷党が瓦解すれば無念を晴らせるだろう。
昨夜は逃げたが、今宵は逃げんぞ。
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作者名：都野桜 | 作成日時：2021年12月5日 11時
