地獄の沙汰も貴方しだい〜短編集〜【鬼灯の冷徹】

怪我の巧妙(４) ページ27

鬼「顔色が悪いですね‥痛みますか？」


聞かれたタイミングで腹の虫が盛大に鳴いた


鬼「お腹‥空いたんですか？」

あ「‥夜は寝てしまって‥朝は仕度に手間取ったので‥
昨日のお昼から、何も食べてないんです‥‥」


空腹と気恥ずかしさでAはしょんぼりと下を向く


鬼「では、前倒しでお昼にしましょうか」

あ「はいっ！」


思わず大きな声で返事をしたAの頭を鬼灯が満足気に撫でた

―――――――――――――――

あ「唐揚げ定食と焼き魚定食下さいっ！！」


トレイに乗った定食が二つ、Aの目の前に置かれる
席まで運ぼうとして、片手では一つのトレイしか持てない事に気が付いた


――この空腹に比べたら、多少の痛みくらい‥！


右手でトレイを持ち上げた瞬間

低い声で名前を呼ばれ、恐る恐る振り返るとやはり鬼灯だ


鬼「右腕を使うなと、何度言えばわかるんですか！」

あ「だって、片手じゃトレイ一つしか運べません！！」

鬼「自分の食べる分だけ運べば良いでしょう！」

あ「どっちも私のです！」


鬼灯は一瞬驚いた顔をした後ため息を一つつくと、Aの右手からトレイを取り上げる

そのまま、すたすたと席へと戻っていく鬼灯の後をAは慌てて追いかけた

―――――――――――――――――――――――

あ「いただきますっ！」


目の前に置かれた二つの定食

もうお腹はぺこぺこで我慢の限界だ

さっそく食べようとして、また気が付く


――左手じゃ上手く食べれない‥‥


だからといって右手を使えば、向かいに座っている鬼灯から即座に指導が入る事は確実だ

しかたなく左手で箸を持ち唐揚げを取ろうとするものの、やはり上手く掴めない

このままじゃ、腕の傷が治る前に餓死するかも


鬼「‥どーぞ」


不意に鬼灯の箸がのびてきて、掴んだ唐揚げが差し出された


――これは食べさせてくれる、という事？


しかし、食べさせてもらうという行為が恥ずかしい
ましてや、ここは多くの獄卒が利用する食堂である


鬼「食べないんですか？」


良い香りが、さらに空腹を煽る


――背に腹は変えられない！


Aは目の前にある唐揚げに、ぱくりとかぶりついた

食べ慣れている食堂の料理も、いつも以上に美味しくてたまらない


あ「‥‥おいひぃ」


これまた良いタイミングで口許にご飯が差し出される

久しぶりに空腹が満たされていく感覚に
Aは恥ずかしいと思っていた事など忘れ

鬼灯に差し出されるまま、夢中で食べ続けた

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