キタヤマボックスR② (ページ3)

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Tonight is the night.(3) ページ3

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『今日はそのままあがっていいから』

何から何までお見通しらしいマスターの言葉に甘え、私服に着替えて店を出た。

クローズまで残らないのは久しぶりで、予想外に早まった退勤に少しだけ申し訳ない気持ちになるものの、ポケットの中のピアスにそっと触れれば、そんな小さな罪悪感はたちまち霧散した。

ピアスの片割れは、きっと彼が持っている。

わざと残していったピアスが俺の手に渡り、この紅い石とともに今度は俺がその手に堕ちるのを、今か今かと手ぐすねを引いて待っているんだ。

いつもカウンターの端から感じていた彼の視線を思い出して、思わずぞくりと震えが走る。

それは決して不快感からくるものではなくて、むしろその逆の…浅ましい期待感に満ちている。

この石のように情熱的な色をした、熱い欲を孕んだあの瞳に飲み込まれてしまうことを、俺は期待しているんだ。

いつも耳をそばだてて聞いていたあの声が、今夜俺の耳元に直接吹き込まれると思うと――

優雅にグラスを傾けていたあの手が、これから俺のすべてを暴いていくのかと思うと――

あの仕立てのいいスーツの下に隠された欲望が、容赦無く俺を貫くのかと思うと――

「っ…、想像だけでイキそ…」

燃えるように熱い欲を孕んだ眼差しは、彼の一方通行じゃない。

俺もずっと、同じ目をして彼を見ていたんだ。

スマホと一緒にマスターから貰った名刺を取り出し、一文字ずつ、確かめるように数字を打ち込んでいく。

この電話が繋がったら、俺は……

『――もしもし。北山くん…――？』

fin.