蚊帳の外で笑え▽藤北/北横 ページ46
※北横 前提の藤→北
※解釈によっては藤→横
久しぶりに訪れた渉の部屋は、相変わらずあたたかい空気で満ちていた。
目の回るような忙しさにささくれ立っていた心も、ここに来ればあっという間に穏やかになっていく。
玄関も廊下もリビングも、そこは一ヶ月前と何一つ変わらない。
ここには、渉の匂いしかない。
そのことが、俺の心を落ち着かせてくれた。
「太輔、眠いの?」
まるで自分の家みたいに落ち着くリビングのソファーに寝転んで、パピー達の熱烈なキスを受けながら目を閉じていると、キッチンから戻ってきた渉が顔を覗き込んできた。
「顔色もあんまりよくないね。家でちゃんと眠れてる?」
「大丈夫、少しは寝てるよ。でも、渉の顔見たらなんか急に眠くなった」
「ほう…それはつまり、安心したってことですか?」
「そういうことじゃないですか?」
俺の答えに満足そうな顔をした渉と、至近距離で見つめ合ったままおどけて笑い合う。
二人の距離は、俺が少し頭を持ち上げれば唇が触れてしまいそうなほど近い。
けれど、いつも無意識のうちに正しい距離感を測っている渉は、過ちが起きる前にするりと離れていった。
そういうとこ、カタブツな渉らしいね。
一回や二回事故でキスしたくらいじゃ、アイツは怒らないのに。
…正確には、「怒れる立場じゃない」んだけど。
「渉さん特製のハーブティー淹れてきたけど、いかがですか?太輔さん」
「いただきまーす」
渉のすすめに右手を挙げて、いい香りのするカップを受け取る。
きっと、俺の疲れが少しでも取れるように、色々考えてブレンドしてくれたんだろう。
赤とオレンジを混ぜたような深い色をしたそれは、俺の喉奥に優しく沁み渡っていった。
まるで清流のように俺の体内を巡っていく、渉の優しさ。
でもね……
俺の胸の内に蔓延る黒い淀みは、こんなものじゃ少しも癒せないんだよ。
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作者名:いちはら | 作成日時:2016年2月10日 0時