キタヤマボックスR (ページ13)

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くちびるにハニートラップ(3) ページ13

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他愛もない話をしながらの移動は早く感じるもので、いつの間にか収録スタジオに到着していた。スタッフさんの姿があちこちに見え始めて、ミツと一緒に挨拶していく。

それぞれの持ち場で真剣に作業するスタッフさんの姿に触発されて、俺も頑張らなきゃな、と気合を入れていると…

不意に右手を引かれる感覚がして、気が付いたら機材と暗幕の死角に連れ込まれていた。

こんなことをする人は、一人しかいない。

「……ミツ？どうした？」

死角に連れ込んだ犯人に声をかけてみるものの、その意図がわからなくて少し戸惑う。

俺なんかしちゃったかな？と一人考えていると、暗闇の中でもはっきりわかるミツの艶めいた唇が、にっこりと綺麗な弧を描いた。

…なんとなく、身の危険を感じるのは何故だろう。

「横尾さん、唇切れてるから、本番前にリップ塗らなきゃね？」

「え？あー、でも俺今リップ持ってないから、」

「うん、だから俺が塗ってあげる」

――えっ、どういう意味？

一瞬浮かんだその疑問は、衣装のネクタイを引っ張られると同時に唇に触れた何かによって、口に出すことはできなかった。

俺の視界いっぱいに広がるのは、目を閉じたミツの綺麗な顔。

…あれ？もしかして今キスされてる？

頭がそう理解した瞬間を見計らったように、唇に感じていた温もりがスッと離れていく。

驚きで体が固まって、ネクタイを離されてもまだ不恰好な前かがみの俺の目の前には、どこか満足げなミツの笑顔があった。

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