第42話 時過ぎたりてここに起つ ページ17
ブレーキを効かせ、緩やかに停止。風を切って靡く髪も静かに落ち着いて首を擽った。目を覆うゴーグルを外し代わりに邪魔だとつけていなかった蝶の髪飾りを横髪に留める。ギアを1速にしスタンドを立て固定させた愛車を軽く撫でて視線を移した。
目に向けた先にあるのは、等間隔に建てられた灰色の墓石。そう、ここは霊園である。
『ここにアイツはいないけど、一応命日だからね』
くすりと笑みを零して花束と掃除道具を鞄から取り出す。私以外に人が居ないので黒影も影から飛び出した。取り付けられている蛇口をひねりバケツに水を入れ、「汐深家」の墓石の前に立つ。そこには、色鮮やかな彼岸花。それも3、4本ではない。10は越えている。
『私の花より豪華だな』
思わず苦笑した。まぁ、友人の息子の命日だからな。友人の葬式も行けなかったけれど、一度も顔を見ることが叶わなかったけれど、名前もここで知ったけれど、呪骸を通して繋がりはあって。亡くなったと聞いた時はきっと動揺しただろう。残された私のことを思案しただろう。あの人は強面だけど優しい人だから。
『でも家族より先に掃除を済ませておくのは意義を申し立てたいよ。ねぇ黒影』
「わう」
『私のやる事無くなるし、なんだか申し訳ない気持ちにもなってくるし』
それは私がやるので貴方は黙祷と献花で留まってください、と言いたい気分だ。苔の一つもない、汚れの一つもないピッカピカな墓碑を前に独りごちる。折角汲んだ水も掃除道具もお役御免だ。形式として一応ブラシで磨いたりなんだりするがなんということでしょう、beforeもafterもないなんの変化も起きませんでした。
『さて、お前に選んだ花だ。喜ばないなんて選択肢はないよね?』
応える声は何一つだってないが、お前ならこう言うんだろ。これがお前の愛の形か、だとか何とか薄い笑みはそのままに私が一等焦がれた琥珀を蕩けさせて私の頬を赤く染めさせるのだ。ここに埋まるはずだった身体はない。もうすぐ、もうすぐだ。お前を弔うのは、あと少し。
『…終わらせるよ。必ず。好き勝手されて黙っているほど、お淑やかな性格じゃないんでね』
宣戦布告のように告げた私の横で黒影が追悼の遠吠えを上げる。それを、献花に捧げた花が確かに見つめていた。
赤い菊 貴方を愛します、愛
緑のチューリップ 美しい瞳
オレンジのキンセンカ 別れの悲しみ、失望、静かな思い
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ボーダーライン(プロフ) - 久々の更新で長らくお待たせいたしました!私生活が立て込んでましてね…でもこれからはバンバン更新していきたいと思います!!骨マニアと女王様のコンビ、良いですよねぇ。ここだけの話、続編の幕間は女王様を掘り下げようかな、と。コメント有り難うございました!!! (2022年5月24日 17時) (レス) id: 6d6b1b008a (このIDを非表示/違反報告)
猫さくらもち - あぁ〜〜〜!久しぶりの更新ありがとうございます!!毎日楽しく読ませてもらっています!これからも更新まってます!頑張ってください!ちなみに私は骨マニアと女王様のコンビが好きです!! (2022年5月24日 17時) (レス) id: f692ce80b7 (このIDを非表示/違反報告)
ボーダーライン(プロフ) - 全作!有り難うございます!!骨マニアはキャラ立ちしてるし動かせやすいんですよね。個人的に押してるのもあるんですけどフハハ。女王様も好きだけどキャラが未だに掴めない、正に女王様。これからの活躍も乞うご期待!!更新頑張ります!! (2022年3月2日 13時) (レス) id: 6d6b1b008a (このIDを非表示/違反報告)
はるみん - 全作読ませていただきました‼︎大好きです‼︎今作も骨マニア大活躍ですねw (2022年3月2日 0時) (レス) @page6 id: ab207372ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボーダーライン | 作成日時:2022年3月1日 11時