【呪術廻戦】 これは、君を失うまでの物語

第53話　舞台裏のマリオネットたち ページ32

10月8日。体育の日に近いことから骨の健康に相応しい季節で、ホの字が十と八に分かれているという由来で定められた「骨と関節の日」。日本臨床整形外科学会では、この日を中心に毎年整形外科疾患のテーマを決めて各県臨床整形外科医会が各地で様々な行事を行って講演会、医療相談、新聞記事、電話相談、新聞広告等を予定している。今年のテーマは「運動器の健康・骨と関節の日」。東京都の公開講座は「様々な障害を飛び越えて”人生100年時代”を元気に生きる」をモットーに講演する題目が骨粗鬆症、変形性関節症について。

といった内容を朝5時半に翡翠から電話で今日は暇かと聞かれて暇だと答えた途端にマシンガントークで説明されて行くか行かないかも言ってないのに迎えに行くから支度整えてねと言い残して切られた私の心境を10文字以内で述べよ。解、ふざけんなよお前。


『お前さぁ、本当に人の話聞かないよね。私骨に特に興味ないんだけど』

「何を言うんだ。骨は一生付き合っていくものだよ。人間にとって必要不可欠。それならば良く知っておくにこしたことはないだろう。はい、これ講演する先生の資料。事前に頭に入れといてね」







帰りたい。切実に。スタッフが配布したものとは別に用意している熱量が私とは著しく違う。会場の並べられている椅子の最前列に始める40分前に座ってふんすと意気込んでいる翡翠を自作の資料を受け取って胡乱げに見つめた。

スカーレットは締め切り間近で断られどうせならと私を引っぱってきたらしい。逃げたなアイツ。資料を読み込み、予定通りに始まった講演は案外面白いものであった。初めて参加した私にも良く分かる丁寧な内容と飽きさせない軽快な話術で骨に疎い私でもちゃんとついて行ける。まぁ問いかけを投げられる度に隣の男がここぞとばかりに手を上げ、専門用語が出た際は毎年参加している東大医学部を首席で卒業した強靱な狂人の解説があったからもあるんだが。

15：30〜18：00までの2時間半どっぷり骨の話に浸かり、ご飯食べて帰ろうとお洒落なレストランで一息入れる。ほくほく達成感に満ち溢れにんまり笑っている翡翠がフォーク片手にその翡翠色の瞳を細めて口を開いた。


「どうだったかい。初めて来ても楽しめたでしょ？」

『そうだね。奥が深くて翡翠がのめり込む理由も少し分かったかな。ただ誘う時は当日じゃなくて前日に誘って欲しい。なんの心の準備もない人には濃すぎるんだよ』

「それは検討するけど、仕方ないさ。骨に罪はない」

『うん、罪があるとすればお前の気遣いのなさだもんね』


妥協するな、直せ。

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