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【本編】冥府と花の騎士 33 ページ45

「この国も…随分変わりましたね」
 カラン、と氷が音を立てた。オウケンの頬は少し赤く、大分酒も回っているようであった。
「あぁ」
 デスハーも続けて酒を飲み干す。既に夜も更け、店も益々活気を増している。変わらずAも店の中を走り回っていた。
「Aは…きっと、大丈夫ですよ」
「何がだ」
「きっと、立派な騎士になれます!」
「…直接言ってやったらどうだ?」
 それは恥ずかしいですね、と彼は素直に笑った。なぜこうもこの男は思ったことを素直に言えてしまうのか。その真っ直ぐで優しい男の性格に、これは本当に自分の弟なのかとデスハーはいつも疑問に思う。

 なぜ、あの父上からこんなに眩しい男が育ったのだろうか、と。

「良いじゃんかよォ、一緒に飲もうぜ?な?」
「し、仕事中ですので…」
 ふと聞こえた声にデスハーは視線を飛ばした。何やら店の客に、Aは絡まれているようだった。
「お嬢ちゃんそう硬いこと言わずに、ヒック」
「オレたちと楽しいことしようぜ〜」
 ハァ、とデスハーはため息をつく。まあ酒場という場所は存外そんなものである。
「や、やめてください…私は仕事に…」
「お客と飲むのも仕事だろォ?」
「そうそう!つれないこと言うなよ〜」
 そんな流れを見ていたオウケンも、「だから心配だったんだ」と睨みつける。でも、とその場を退こうとする彼女の腕を男たちは離そうとしなかった。
「あの、本当に…いたっ」
 男が、Aの手首を掴む。
「お前たちっ、…」
 思わずオウケンが手を出しそうになった時だった。

 紫色のマントが視界を掠めたのは。

「おい」
「!?」
 男の腕を、一回りも大きい手が掴んでいた。
「相変わらず躾が行き届いていないな、ここの客層は…」
「で、でで…デスハー、王…!」
「おい店主!しっかり見てくれないと困るぞ」
 デスハーの声に、すぐに店の主人が飛んでくる。
「も、申し訳ございません!デスハー様…」
「コイツはデスパーの紹介だろう?労働者はきっちり守ってもらわんと困る。私の弟の弟子だ。ちゃんと見てろ」
「は、はい!」
 ビシッ、と店主が返事をする。
「お前たちも…王の前で醜態を晒すとは…よい度胸だな」
 バチバチ、とからかうつもりでデスハーは片手から雷を少し漏らす。
「ヒィ!?」
 それを見たデスハーはニヒッと笑った。
「す、すす、すみませんでしたー!」
 男たちはすぐにテーブルへ金銀を叩きつけると、足早に店を後にした。

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作者名:アユミ | 作成日時:2022年5月2日 22時

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