冥府と花の騎士 (ページ29)

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【本編】冥府と花の騎士２１ページ29

「もう、利用はされたくないし、されるつもりもない。この力は、私自身が使うもの。そのために、己が強くならなけれなならないと思いました。強くなり、そして…。私が、あなた方ご兄弟に救っていただいたように…。私も、守る側に立ちたいと」

　彼女は…いつからこんな顔をするようになったのだろうか。

「私も、デスハーさまのそばで、闘いたいのです！」

　あぁ、兄者…。あなたは、また随分と、可愛らしい心を奪ってしまったのですね。囚われの少女が、強くなりたいと願うほど…。

　いや、奪われたのは…もしかしたら。

「あの王のそばで、ですか」
「はいっ。この国のために、闘います！」
　この国を恨むはずだった少女は、今度はこの国を想い、自分を奮い立たそうとしている。その細い身体で、これから訪れる数多の困難に立ち向かうため。

　共に、背負ってくれると言うのですね。あなたは…。

　いつも自分たちの先を行くあの兄の隣に、いつしか彼女がいるようになるのだろう。その背負ったものに王が耐えきれない時、この小さな手が支えてくれるのかも知れない。その手で、大丈夫と握ってくれるのかもしれない。

「ですから…。デスパーさまは、その、今までも沢山の方を、お強くしてきたと聞いて…」
「まあ確かに、私は教えるのが上手いですよ。自分で言うのもあれですがね。弟子もたくさんいますし」
　しかし彼女が。この少女が…ね。デスパーはまじまじと彼女を見つめる。
「私は、冥府騎士団に入りたいのです！」
「！」
　真っ直ぐ、こちらを見上げる瞳は眩しい。何を言ったかと思えば、冥府騎士団に入りたいだと？
「…それはまた、面白いですね」
　デスパーはベッドから立ち上がる。椅子にちょこんと座る彼女を上から見下ろすと、人差し指を一本、彼女の目の前に立てた。
「一つ、約束してください」
「は、はいっ」
「私への確かな報酬。それが条件です」
「ほ、報酬…」
「なんです？その顔は。私だって生きているんですからお金は欲しいんです。いずれここでの仕事も辞めるつもりでいますしね。こんなとこに閉じこもって永遠と書類とにらめっこするような仕事はうんざりですから…。で、どうしますか？」
「…はいっ。約束します！」
「よろしい。小さな騎士さん」
　デスパーは、しゃがみ込む。
「あなたのその見上げた信念。信じましょう。そして、あなたに稽古をつけます。厳しい訓練に加えて、他にも掃除や雑用…。お願いしてもよろしいですか？」
「はいっ！」