冥府と花の騎士 (ページ17)

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【本編】冥府と花の騎士１１ページ17

あぁ、思えば私はこの方の前では泣いてばかりだ。

　なぜ、デスハーさまは、あの子を私の元へ。きっと、巻かれていたあの包帯だって…。死んでしまっていたはずなのに、黄色い羽根に少しの汚れがなかったことも。あの子を救ってほしい、と敢えて頼んできたのも。

　全て。

　あぁ、どうしてこの人は。

　デスハーさまは、サトゥン王とは違う。どうして、こんな気付きにくい…。

　あなたは、絶対に非道な人間でも、残酷な人間でもない。不器用な優しさを持ち、それでいて偉大な強さと、王の器を持つ人だ。

　その勇ましい瞳に、時折映る悲しみは一体なんだろう。それを、ほんの少しでも私が背負うことはできないのだろうか。

　真っ直ぐ、あなたが見つめるその先を、私も一緒に見ることはできないのだろうか。

　頬から落ちた、涙が一凛の花を咲かす。

　そうだった。この涙は、誰かが苦しむものなんかじゃ、ない。確かに、前王に利用され、沢山の人たちが苦しんだ。けど、それは私の弱さだ。

　私が、こんなにも、無力で弱いから。

　救えるはずの力を持ってしても、私自身が強くなくては、何の意味もない。今だって、籠に囚われた小鳥のごとく、私はこの城に守られている。

　強くなりたい。誰かに守られるではなく。立ち向かえるような強さを。

　そして、今目の前にいる王を、支えられる強さを。それは傲慢で、ただの思い上がりのように聞こえるのかも知れないが。

　私は、デスハーさまのそばにいたい。守られるだけの存在ではなく、共に立ち向かえる強さを持って。

「…思い出し、ました」
「…、」

　いつか昔、顔も覚えていないような母から聞いた。

　この力は、人を救うために授けられたのだ、と。それが、私の運命なのだと。

「本当は、こんな力、いらないと思っていました…。私がこんな力を持ったせいで、たくさんの人が苦しんだから…」

　自分の運命を、呪った。でも。

「でも、それは…私の、弱さです…」

　もう、弱いままでは、いたくない。そう言って私はデスハーさまを見上げる。目を、見開いたデスハーさまの視線とぶつかった。
「…私は、もう自分のために泣いたりしません」
　泣くのはやめだ。
「今度こそ、泣くときは…誰かを救うためでありたいから…」

　この涙は、救いたい人のために流したい。
「私は、この国のために、この涙を流したい！」

　それは、今目の前にいる偉大な王への宣言と誓い。私の運命が、大きく変わり始めた瞬間だった。