私の世界の一部を、あなたに見せよう。 ページ8
「……これは?」
「あぁこれはね……」
それは真っ白い昼下がりのこと。ゴミ山に2人で座って、開いているのは恐竜の図鑑。私の座る隣には、他にも植物の図鑑や犬の図鑑、小説から絵本まで沢山の本が積み上がっていた。
「…この文字は覚えた。この恐竜の図鑑も面白いけれど、もう絵や写真の本は飽きたな」
「じゃあもっと難しい小説でも持ってくる?」
「…いや、ワクワクするような物語がいい」
「ファンタジー系?」
「Aに任せる」
あれから数日間、私はあることを決意したのだ。それは、私の持っている本をこの世界に持っていくこと。
クロロが、字を読めるようになること。
残念ながら私はこの世界の文字が分からないし、もちろんこの世界の書物は持ち合わせていない。そんなに世界を知りたいならば、異世界のことだって知ってしまえばいいんじゃないだろうか、と。
この小さな、世界の掃き溜めのような街で暮らすこの少年に、楽しいことを教えてあげたかった。
だって世界はこんなに広いんだもの。
私とあなたが出会ったことが、奇跡みたいなぐらいに。
「クロロ、あなたやっぱり賢いのね。私が教えなくてもほとんど読めるようになってるじゃない」
「そうか?簡単だよ。それに、楽しい」
本のページをめくる彼の手は止まらない。つい数日前まで絵本ばかり見ていたクロロは、今じゃ中学生レベルの本だって読めてしまうんだもの。
「……」
すっかりあちらの世界へ行ってしまったクロロ。本に視線を落とす彼の睫毛は長くて、黒曜石のような瞳はとてもキラキラして見える。夜を映したような黒髪も、日の光を浴びて星空みたいに光ってる。
生温い風と、クロロが本のページをめくる音。目を閉じればとても穏やかで美しい情景が浮かぶのに、視線を飛ばせば辺りは廃棄物の山だ。
「…かんじんなことは、めには、みえない」
ふいにクロロが口にした台詞に、視線を彼へ飛ばす。聞いたことがあるフレーズ。色素の薄いやわらかな男の子のイラストを見て、私は合点がいった。
あぁ、あの本か。
「…目に見えないものなんて、あって何か役に立つのか?」
「またすぐそういうこと言う」
それはあまり本を読まない私でもよく知る、小さな星に不時着した男の子と、その星に住む王子様の物語だった。
「役に立つとかそういうものじゃないんだよ」
「オレには理解し難い」
真剣に悩む彼を見て思わず笑いそうになる。そうか。彼は知らないんだもの。
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作者名:アユミ | 作成日時:2021年8月18日 19時