26. ページ28
Side You
その日は最悪だった。
いつかの使えない社員のせいで仕事が増えた日がよっぽど楽に思えるほど。
朝からバイトは無断欠勤するし、ランチの忙しい時間帯にあほみたいな言いがかりのクレームはつけられてその対応に追われるし、責任者を出せと言われても私が責任者なのに、こんな若い女が責任者なわけあるかって。男尊女卑にもほどがあんじゃねえのジジイってマジで切れるかと思った。きれなかったし謝罪もした私褒めてほしい。それをまた本社に報告したらまた私が怒られるし、誰かの発注ミスでコーヒー豆は足りなくなるし。
私が失敗して私がへこむなら私が悪いですむのに、今日に関しては私悪くないからね。どう考えても私が悪くなさ過ぎて、それなのに怒られて、もういい大人なんだから切り替えなきゃいけないのに切り替えられなくて。
どうしようもなく誰かに認めてほしかった。
私はわるくないって一言だけ言ってほしかった。
一人になりたくなかった。
山本さんに、会いたかった。
やわらかく笑ってくれるその人は、私だけのものじゃないのは分かってたのに。こうして偶にお店に来てくれたり一緒に煙草を吸えるようになっただけで奇跡なのに。
ただのファンでしかなかったのに。
ただのファンでいいから、今日はどうしても会いたいと思ってしまって、店を出て、たまに会えるその場所でその人を待ってしまった。
裏口の小さな段差に腰掛けて煙草に火を点ける。
もう何本吸ったかわからなくなったころ、雨が降り始めた。大粒のそれはすぐに数えられないほど降り出して、あっという間に私を濡らす。
もう煙草も吸えないや。
そのまま蹲ってどれくらい経っただろうか。
来るわけないじゃんね。別に約束したわけでもないし、もう家かもしれない。いつまでもこんなとこいないで帰らなくちゃ。頭ではそう思っても動く気になれずに
ぼんやりそのまま縮こまっていた。
「Aさん!」
不意に、待ち望んでいた声で名前が呼ばれた。
近づく足音、跳ねる水の音。それが止んだとき、ゆっくり顔をあげると、ずっと会いたいと思っていた人がそこにいた。
「…遅いよ」
安心感で頬が緩んだ。その瞬間抱きしめられる。
触れる体温があったかくて、でも山本さんが冷えちゃうと思っても動けなくて。
ゆっくりとその体を離した山本さんは、困ったように、でも優しく笑ってくれた。
…そう、貴方に会いたかった。
534人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時