【QK】煙草と珈琲と君【ymmt】

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Side Ymmt


それから僕と彼女の関係は少しだけ変わった。
お店に行けばいつも通りいる彼女と、お会計の間だけ少し会話をして、たまにコーヒーをサービスしてもらったりするのはあまり変わらない。

変わったことと言えば、僕が帰りが遅くなった時にあのお店の裏口側を通って、彼女がお店を出たタイミングと重なった時だけ一緒に煙草を2、3本吸って他愛もない話をして、そしてあの角まで一緒に帰る。

それが何回あったかな。
僕が帰る時間も、彼女が変える時間もまばらだし、そう毎日毎日会えるわけもない。あの偶然の初めての日から1カ月ほど経っただろうか。その間に3回くらい、彼女と二人で話していたわけ。僕は煙草3箱目。お店の常連さんから、煙草仲間に昇格できた。

Aさんのことも少しずつ知れた。
今の会社で働いていくうちに、コーヒーにもはまって、でも最近は自分のために淹れてなくて、仕事ばっかりだけど、でも仕事も楽しいし、って。こんなのに構ってくれる彼氏なんていないよね、と自嘲的な彼女は忘れられない。

こうして何回も話をしたけど、でも連絡先を交換したわけではないし、僕とAさんの関係はやっぱり少し変だった。


「うわーすげえ雨」

「え、ほんと？」

「今日雨予報でしたっけ」

「いや、これすぐ止むんじゃないの？」


長引いた撮影ののち、窓から外を見ると物凄い豪雨だった。予報が大外れした大雨にみんな辟易しながらも、終電の時間は迫っているわけで、いつからか須貝さんが置きっぱなしにしている大きな傘を持ってじゃんけんに負けたこうちゃんがいつものコンビニまで帰る人分のビニール傘を買いに行く謎の罰ゲームを課せられた結果、僕は無事に雨に濡れずに帰れているわけ。

終電になんとか間に合った僕は、雨も相まって真っ暗ななか、まさかこの雨だしAさんいるわけないだろうと思いながら、もはや癖になりつつある裏口側の道を通っていく。


「…え？」


誰もいないだろうと思っていた。
いつもなら会えたらいいなと思うけど、雨粒が傘にあたる音がうるさいくらいの大雨じゃ、そこにいてほしくないとさえ思った。

でも、その人は裏口の前に座り込んでいた。


「Aさん！」


駆け寄ると、いつからそこにいたのかわからないくらいずぶ濡れになっていたAさんはゆっくりと顔をあげて、そして僕の顔を捉えると、弱々しく笑った。


「…遅いよ」


雨音にかき消されそうなほど小さく呟いた彼女を、僕は思わず抱きしめた。

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