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Side Ymmt


「紫苑珈琲…?」


オフィスからの帰り道。
そこの角を曲がって100mあるけば僕のアパート、というところでその角に新しい建物が建っていた。

久しぶりに夕暮れの明るい時間に帰っているからだろうか。そういえば工事をしていたかもしれない。己の周りへの注意力のなさに呆れる。

まるで古民家のような、こじんまりとした一戸建て。
扉の前には、かわいらしい筆文字で『紫苑珈琲』と書いてある。どうやら喫茶店らしい。

随分近所にできたなあ、今度来てみよう、とその店の前をちょうど通り過ぎたとき、カラン、というドアベルの音とともにその扉が開いた。
その隙間から風に乗って運ばれてきた香ばしい香り。
…美味しいコーヒー、飲みたいかも。

今度来てみよう、とさっき思ったはずなのに、いつの間にか僕はその扉を開けていた。


「…いらっしゃいませ、おひとりですか?」

「あ、はい」

「空いているお好きなお席へどうぞ。お冷とメニューお持ちします」


開けた瞬間に、先ほどの香ばしい香りがより強くなる。
綺麗な顔立ちの女性は、一瞬だけ目を見開いたように見えたけど、かわいらしい笑顔を浮かべてすぐににこやかに案内の文言を述べる。

彼女が店主なのだろうか、そもそも個人経営なのかもわからないけど言われた通りに店内へ進む。
まだ開店して間もないはずなのに店内の席はまあまあ埋まっている。適当に空いているソファの席へ腰掛けると、やがてすぐに先ほどの女性がメニューの冊子と氷の浮いた水を持ってきた。

どうやら本格的にコーヒーにこだわっているお店のようで、確かに言われたら覚えがあるような国の名前が並んでいる。僕はこだわりもないのでよくわからないなあ、と途方に暮れていると本日のおすすめ、という文字を見つけた。
これと、あとなにかケーキかなぁ、とページをめくった時。


「お決まりですか?」


呼び鈴もないテーブルに、彼女は絶妙なタイミングで現れる。


「あ、じゃあ本日のおすすめと、あとなにかケーキをお任せで」


決めきれないな、と判断して、彼女に任せることにした。
また驚いたように目を見開いて、そしてまたかわいらしい笑顔を見せた。

彼女が去ったあと、ゆっくり店内を見回す。
座り心地のいいソファ、二人掛けにしては広めのテーブル、流行りものではない洋楽。
電源もあるみたいだから、籠って作業するにはもってこいだろう。

なにより。


「おまたせしました」


彼女の笑顔に惹かれている。

2.→←Prologue.



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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時

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