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Side You
「おつかれさまです、随分集中してらっしゃいましたね」
「ありがとうございます。宮前さんも今日お休みだったんでしょう?」
「あれ、聞こえちゃいました?」
「聞こえちゃいました。…大変ですね」
伝票をもってお会計に来た山本さんと、ただありがとうございます、だけではなくそんな会話を自然にするようにいつの間にかなってた。そしてお互い当たり前に宮前さんと呼ばれ、山本さんと呼んでいる。
前の店にも名前を覚えてくれた常連さんもいたけれど、それとは少し違う関係性のような気がした。
「まあ仕事柄しょうがないです、…スタンプ、あと1個ですよ」
「あ、ありがとうございます。次いつ来よう。…あ、宮前さんいついますか?」
「私はこんな感じなんでいつでもいますよ」
「お休みだってあるでしょ」
「ないようなもんですよ〜、山本さんがめげずに来てください」
「…なんだか振られた気分」
「えぇ?」
スタンプカードを取り出して、カードにいつものように押して、そしてお会計、と手元で操作してると、そんなことを山本さんが言うから思わず顔をあげた。
「冗談です、宮前さんも忙しいですもんね。また来ます」
私が顔を上げると、そんな様子が可笑しかったかくすっと笑う。
「…お待ちしてます」
私もにっこり笑って、お釣りを渡した。
山本さんはまた私に笑いかけると、出口へ向かおう、としてすぐ振り返った。
「これ、あげます。お仕事頑張ってください」
今度は山本さんから私に渡される。それは飴だった。
イチゴ味の、三角形の、ちょっと脆いあの飴。
私がお礼を言うよりも先に、山本さんは今度こそ店を出た。
冗談と言って笑った山本さんの笑顔が忘れられなかった。余裕そうで、でもちょっと寂しそうな、不思議な笑顔。
「Aさん、休憩行きます?」
「あぁ、そね、15分だけ」
いつの間にか出勤していた夜の子にそう声をかけられ、
お言葉に甘えてバックヤードへ下がる。何を考えていたんだろうな、山本さんは。
答えの出ない問いをぼんやり考えながらスマホを開く。
タイムラインを最新に更新すると、一番上は山本さんの投稿。
『今日もいいことがありました。』
この間と同じように見せかけて、今日は写真付きで、その写真は間違いなく、私が淹れたコーヒー。
…やっぱりこの間のいいことって、と繋がると嬉しくなる。
…私もいいことがあったので、がんばれそうです。
これはどうやったら貴方に伝わるのかな。
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時