14 ページ14
「いやぁ、でも、あれだな。
茂庭の退院は嬉しいけど、あの清楚で綺麗なAさんに会えなくなるのは寂しいな」
俺のくだらない脳内思考に割って入ってきたのは、笹谷さんが口にしたアイツの話だった。
その名前に反射的に顔を上げてしまった俺は、ごまかすように大袈裟に首を鳴らして、そっと耳を傾けた。
「そんなこと…
いや、ないと思ったが大いにあるな」
「だろ！？
茂庭の見舞いに来るたびに癒されてたってのに、それがもうないなんて…！」
「茂庭はいいよなぁ、Aさんとずっと一緒だったんだから」
「ハハ、一緒って言ったって、Aだって仕事だからな」
一瞬にして、頭が真っ白になった。
笹谷さんと鎌先さんはまだよかった。
初日からAについて色々言ってたし、この人らがこういう下世話な話をするのはいつものことだった。
でも、茂庭さんは違う。
どっちかっつーと、そういう鎌先さんらを一歩引いて眺めるだけで、干渉はしないのに。
「Aさんと少しでもお近づきになりたかった…！！」
「最後、Aさんに声かけてみたら？
案外話せたりするんじゃないか？」
「茂庭じゃねーんだよ！こっちは無理だ！！」
頭を抱えて叫んだ笹谷さんと、それをなだめる茂庭さん。
Aの名前を当たり前のように呼んで話を続ける先輩らを、何とも言えない気持ちで見つめる。
笹谷さんらがAの名前を知ってることも面白くないけど、それよりも引っかかることがあった。
茂庭さんが、Aのことを呼び捨てで呼んでいた。ついさっきは、さん付けだったけど、それでも。
〈 「ハハ、一緒って言ったって、Aだって仕事だからな」 〉
あれは言い間違えなんかじゃない。
ごく自然に、茂庭さんはアイツの名前を呼んだ。
そういえば、アイツも茂庭さんのこと、やけに知っているような口ぶりをすることがあった。
茂庭さんとアイツは、そういう仲なのかもしれない。
俺とアイツは、バス停で会って、メシに行くだけの関係。思えば俺らは互いの連絡先すら知らない。
親しくなったなんて、俺が勝手に思っていただけなのかもしれない。
未だにワイワイと話が続いていたが、もう先輩らの声は聞こえていなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 219人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さな(プロフ) - 柴田んぬさん» 柴田んぬさん、ありがとうございます！楽しんでいただけるように頑張ります！ (2023年1月22日 22時) (
レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
柴田んぬ - このお話すごく好きです！応援しています^^ (2023年1月22日 16時) (レス) @page5 id: 8796ade977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さな | 作成日時：2023年1月20日 18時
