無理 ページ7
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とんとん、と階段を降りて坂田くんを振り返る。
ポケットに手を突っ込んで、ゆっくり彼は降りてきた。
私も坂田くんも、決して横には並ばない。恋人なのにイチャイチャしないし、手だって繋がない。
それは何故なら、坂田くんが私をまだ好きじゃないから。
そして私も、無理強いはしない。
――――何故なら、私も坂田くんをまだ好きじゃないから。
私は彼に「これは運命」と言った。けれど私も正直言ってよくわからない。
しろーくんから話を聞いて、どんな人だろうと気になってはいた。電車で特徴と一致する人がいて、きっと彼だと視線をしっかり向けたとき。
･･････私の心臓は何の脈略もなく、大きく音を立て始めたのだ。
顔は一気に紅潮し、思わず視線をどこに向けるか悩んでしまったほど。
私がちゃんと彼を好きなのかはわからない。しかし、私の頭は考えるより先に「彼を逃してはいけない」と判断したのだった。彼の隣の席へ行き、話しかけたところで私はやっと後悔した。
(最低だ･･････)
好きかわからないけど、運命を感じたので告白しました。
こんなの、坂田くんに失礼すぎる。殴られても文句は言えまい。
なのに彼は、私の告白をOKするという思いもかけない行動をした。
フラれても納得できる状況だろうに、なぜ？
私の頭にもその疑問はぷかぷかと浮かび続けている。
――――さっき、聞けばよかった。
「･･････ね、坂田くん」
「ん」
「あのね、私も聞きたいことが」
かつん、と爪先が階段の滑り止めに引っ掛かる。
前につんのめり、思わず手すりを離してしまう。体が少し宙に浮いた。
「あ」
空中で顔を守ろうと腕を動かす。ほんの0.0数秒だというのに、すべてがスローモーションに感じる。
顔の方から地面に近づいていくのが分かる。低いとこから落ちたんならまだマシだけど、生憎私が足を踏み外したのは上から数段目だった。
悲鳴を上げる暇なんてない。
私はこれから来るであろう痛みにしっかり目をつむった。
歯を食い縛る。
「――――っ、ぐ」
ぐい――――、と腹部に腕が回って思い切り引き寄せられる。突然のことに蛙が潰れたような声を出してしまい、慌てて口を押さえた。
･･････しっかりした腕だった。腕の主を振り返る。
それは予想通り、怒ったような焦ったような、驚きも少々混じった不思議な顔をする、坂田くんだった。
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