【十九】 ページ20
・
・
そんな昔話の記憶に浸っているうちに
はっとして。自分がぼんやりとしていたことに気付く。
どのぐらい時間が経った？ここはどのあたり？
確かめようと窓の向こうに視線をやれば
・
・
「………？」
・
・
屋敷までの道、ではないことを知る。
・
・
「あの、すみません。道を間違えているみたいです」
・
・
慌てて御者に声をかけた。しかし、返事はなく
訝しく思って、聞こえていない可能性も考えて「あの！」
さっきより大きめの声を出す。
・
・
「紅玉館に戻りたいのです！」
「申し訳ございません、お嬢さん。
貴女を連れてくるように、言われているのです」
・
・
御者が、ほんの少しだけこちらを振り返った。
ニィ……と。気味の悪い笑み。ぞくっとした。
・
・
「な……！困ります！降ります、降ろして！！」
「降りたいならどうぞご勝手に？ただ、馬車はかなり飛ばしていますのでね。
大怪我をなさりたくないのなら、このまま大人しく座っていてください。
私だって未来ある年頃の娘さんが走ってる馬車から飛び降りて、骨を折って二度と歩けなくなったり
顔に大きな傷でも残ったら……なんて、気の毒で仕方ありませんよ(笑)」
・
・
ぴしゃり。御者は、馬に鞭を打ち。馬車はさらに加速した。
一体、何が起きてるの。私を、連れていく？どこに。いや、……
・
・
「誰が、こんなことを」
「まもなく到着です、その答えはすぐに分かりますよ」
・
・
馬の嘶きが、やけに耳に響く。
どくん、どくんと。心臓が早鐘のように打って
なすすべもなく私は黙る。道が悪いらしく、馬車は何度も上下左右に激しく揺れた。
・
・
「女ひとり運ぶだけで大金が転がり込むなんて……こんなうまい商売、乗らないわけにはいかねえよ……くくくっ」
・
・
御者が下品に笑うのが聞こえた。
同時に、徐々に速度が緩やかになっていく……目的地が、近い？
・
・
旦那様……と。口の中でだけ呟いた。
スミレの残り香は、まるで過去の穏やかな記憶と同じで
・
・
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 383人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なるちゃん(プロフ) - うーむ、未だかつて読んだことのない味わい、、、さすがの一言 (2017年7月26日 22時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
玉梓(プロフ) - chu-chu***さん» 青い鳥サイトのせいかあまり久しぶりな感じもしないですね（笑）とはいえこちらではお久しぶりです。なかなか鋭いコメントです。椿、気になりますよね。大和田も何をしてくれてるんだという気がしないでもないですが。住人が3人になった紅玉館の行方に御注目ください。 (2015年8月11日 9時) (レス) id: 39f84c63ac (このIDを非表示/違反報告)
chu-chu***(プロフ) - お久しぶりです玉梓さん｡そして第1章お疲れ様です｡序盤はミツコとJのやり取りにニヤニヤクスクスしましたが椿登場があってはそうもいかなくなりそうですね…｡椿が今後どんな働きをするのか楽しみです!無理せず頑張ってください＊ (2015年8月11日 9時) (レス) id: 5adc94e614 (このIDを非表示/違反報告)
玉梓(プロフ) - ムーナカさん» 温かいコメントありがとうございます。そうですね、立ち位置的には今回のお話は序章といってもよいお話だったかと思います。引き続き面白いと言っていただけるような作品になるよう、頑張りますね。よろしくお願いします。 (2015年8月11日 9時) (レス) id: 39f84c63ac (このIDを非表示/違反報告)
玉梓(プロフ) - 愁(ｼｭｳ)さん» お久しぶりです。コメントありがとうございます、嬉しかったので返信もしちゃいます（笑）特殊な設定の多いお話なので作者だけが先走りして「玉梓オンリーワールド」になってしまわないよう気を付けながら、引き続き頑張ります。よろしくお願いします(^^) (2015年8月11日 9時) (レス) id: 39f84c63ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
