Episode.182 残される側 ページ32
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ジャンは森の中へ姿を消し、今日のところは野宿をすることになった。
私は兵長の隣へ行こうと、覆いかぶさるような形で荷車に軽く膝を掛けた。
木が軋む音が聞こえたが、とりあえず壊れる心配はなさそうだ。
兵長は力なく両手を広げ私を迎え入れる。
さすがに上に乗るのは気が引けたので、身体は傍に寄せて、手だけを兵長の身体へ回した。
あ、兵長…怪我してるからか…あったかい。
ぎゅっと思わず力が入る。
それは兵長も同じで…
「兵長、あったかいです」
「まあ、この傷だ、熱でも出てんだろ」
「んー…」
頭を胸元に摺り寄せる。
兵長は私の頭をゆっくりと撫でていた。
「…キスすらできねぇな」
「結構酷いんですか？ 傷…」
「まあ、見てはねぇが…確実に痕は残るだろうな」
「なんか、歴戦の勇者感ありますね」
「お前…他人事だと思ってるだろ」
「なんで？」
「別に顔が変わっても兵長は兵長じゃないですか…それとも今から浮気でもする気ですか？」
「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。俺は…生涯お前を愛していくと、言ったはずだが」
「あはは、また…懐かしいことを…今回ばかりは、私…ダメかと思いましたよ」
「…そうか？ 俺は…前ほど絶望してなかったが…」
「うん…なんというか、残される側の気持ちにはじめて立ったわけでして…」
「…それは……辛ぇ思いをさせた、わるい」
「いや、謝られても…でも、私もいつも謝ってましたよね…」
「さあな、んな昔のこと忘れた」
「ふふ…優しいなぁ、もう…」
そういって、私は兵長のかろうじて無事であろう左頬にキスをした。
兵長は私の頭を無理やり掴んでそれを引き離す。
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作者名：妄想侍 | 作成日時：2023年10月5日 16時
