さみしさのはて……T.M. ページ31
なんでそんなに泣いてるの?
そう聞かれて、返事ができなかった。
わからない。自分でもわからない。
コンサートが始まると、自分と貴くんの距離があんまりありすぎて、つらくなることがある。
コンサートを見に行くのは大好きなのに、キラキラ光る貴くんを見て、たくさんの可愛い人達が貴くんの名前を呼んで手を振ってるのを見ていると、変な気持ちになる。
さみしい、みたいな。
自分がちっぽけだなーなんて、くだらない気持ち。
「あんまり泣かないでよ」
そう言ってくれる声がすごくやさしいから、とりあえず泣くのをやめようと努力する。だいたい、見つかるつもりじゃなかったんだ。今日はうちに来ないと思って、油断してえんえんベッドで泣いてたんだから。
貴くんはそっとわたしの頬にさわると、「わーびしょびしょー」とふざけたみたいに言う。
鼻と、頬と、くちびるをぽんぽんぽん、てなぞってから、ふふ、ってわらって、それからそっと、抱きしめてくれた。
「俺がいる時に泣きなって言ってるでしょ」
「……うん」
「ひとりで泣いちゃダメ」
「うん」
「Aにはいつでもおれがいるよー」
ぽんぽん、て背中をたたいてくれる。
子供扱い。赤ちゃん扱いだ。
でも今日は、そんなことでもうれしくて。
ぎゅうって、抱きついて力を込めた。
「おっと、Aがめずらし」
「ねぇ」
「なーにー」
ふざけたみたいに言いながら、あたまをなでてくれる。
「ずっとそばにいてください」
「……うん、ずっと」
ずうっとそばにいるよ、って、貴くんはやさしい声で、耳元にくちづけた。
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作者名:由乃 | 作成日時:2020年10月27日 11時