ほんのすこしだけ 2 ページ20
あ、あのね、ベッド1人で使った方が疲れ取れるでしょ?」
「だからってAがソファで寝たらAがつかれちゃうじゃん」
「ソファ大きいし、ふかふかで意外と寝心地いいんだよ」
「じゃあオレもソファで寝るよ」
「だめだよ! 疲れちゃうでしょ!」
「言ってることおかしくね?」
くすくす、って貴くんは笑う。
それから大きなあくびをして、んーて目をゴシゴシしてから、目を閉じながら手をのばす。
「おいで」
そんなのもちろん、素直に従ってしまう。貴くんのおいでは絶対。低くて甘い声。わたしのぜんぶを支配する声。
ぽたぽた歩いて近づくと、貴くんはぎゅうってわたしを抱き寄せる。腰より低い位置。まるで子供みたいにぎゅーって。
「ねぇオレ今めちゃくちゃ幸せなんだけど」
「うん、わかってる」
「仕事と仕事と仕事とー」
「うん」
だから邪魔しちゃいけないって
「それからA」
「?」
「ぜんぶそろってオレのパーフェクト」
目を閉じたまま、ちいさな声で。
「だから、隣にいてよ」
ね、って、目を開けてわたしを見上げた。
ほんとに?
そう、信じてもいいのかなぁ?
ほんのすこしだけ、落ち込んでた。
貴くんの仕事に嫉妬して、た。
わたしもあんな風に好きになってもらいたいって、そんなばかなこと考えてたから。
涙がぽろって、おちた。
貴くんが手をのばして、わたしをぎゅうぎゅうとベッドに詰めこむみたいに隣に寝かせてくれる。
こっそり鼻を啜って、貴くんのパジャマに顔をくっつけた。
「ほらーこれで」
貴くんの眠そうな声。
「これで、かんぺきなんだから」
ねぇ、ほんのすこしだけでいいんだ。
わたしのことも、あなたのそばに、いさせてください。
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作者名:由乃 | 作成日時:2020年10月27日 11時