ほんのすこしだけ……T.M. ページ19
こんなこと言ったらいけないのはわかってるんだけど、わかってはいるんだけど、言ったらダメかなぁ?
もう少し、休めない?
無理だよね、わかる。大好きな舞台と大好きなラジオのお仕事、大好きなテレビのお仕事に大好きなうたを歌うお仕事でしょ。
どれもぜーんぶ、貴くんのすきなことだもんね。
だから毎日疲れてきても満足そうで、いつもよりテンション高いし、いつもより滑舌が甘くなっちゃってるし、おそうじもほら、あんまりできてないのに気にしてない。
わたしがする適当掃除なんていつもはすぐ見破るのに、今回はまあまあ仕方ないかーって感じで大目に見てくれてる。
疲れてもご機嫌悪くならないのは貴くんのいいところだと思う。なんかいつもよりどーんと大きくなる。
でもやっぱり疲れてるから、
「あ、いーよありがと、うん、そーそれそこで。そのまま、うん、まああとで、あとで」って言いながらむにゃーってもうベッドで寝てしまう。
すーすーって、静かな寝息。
目を閉じた瞼を縁取る濃いまつ毛を、近くでじっと見つめてみる。
また今日も、起きてる貴くんをあんまり見られなかったなぁ。
寝てる貴くんと一緒にいられる時間も、短い。
寝ている貴くんはお人形さんみたいにきれいで、でももはもはっとしてる襟足がすごく男の子で、その差にいつもなんだか心が苦しくなる。
たくさん寝て疲れを取るんだよー、鶏の胸肉、買ってきて鶏ハムにしてるよー。起きたら食べようね、とか。
なんか夢見てるのー?とか。
心の中で話しかけながら、貴くんの睡眠の邪魔にならないようにちょっとだけ寝顔を見つめて、それから意を決して立ち上がる。
ドアの前まで静かに歩いて、振り返る。
おやすみなさい、またあしたね。
…………って、貴くんを見たら目がぱちん、と開いててビックリした。
「え、起き?」
「なんで最近一緒に寝ないのー?」
半分寝てるみたいな呟き声。だけど、目はわたしのことじっと見つめてる。
「なんでだよー」
めずらしくすねてるみたいな、可愛い言い方。
69人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:由乃 | 作成日時:2020年10月27日 11時