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翔ちゃんの動きが止まった気がした。
揺れていたお湯の水面も静かになって…
静かな場所に位置したこの温泉。
街特有の喧騒はまったく聞こえて来ない。
聞こえて来るのは
翔ちゃんの鼓動と、私の鼓動だけ……。
翔ちゃんがどんな表情をしているか凄く気になる。
でも、私からは体を動かす事が出来ずにいた。
すると、私の耳元で翔ちゃんがそっと言った。
『ね、ここで……シちゃおうか』
その言葉を聞いた途端
私の腕は、必要以上に翔ちゃんの胸を押し返しながら言った。
「ダ、ダメっ、無理!!!」
お風呂で……とか、自宅ならまだしも
露天風呂でとか、絶対にあり得ないし///
「プッ…。冗談だよ」
私が翔ちゃんの顔にかけてしまったお湯を手で拭いながら彼が笑った。
「……もうっ…」
『怒るなって(笑) 』
…冗談だったみたいで
１人で動揺した私が、恥ずかしい……。
「…翔ちゃんのイジワル、バカ！」
だから普段は心の中でしか言うことのない言葉も、振り上げた手と一緒に口から滑り出てしまう。
『だから、冗談だって……』
翔ちゃんは私の振り上げた手をキャッチして
『じゃあ部屋に戻る？』
甘えるような声でそっと私の耳元で囁くように言うから
少し頬を膨らませて翔ちゃんを睨んでみるけど、
そんなバカな私をまた甘い表情で見つめ返してくるから、単純な私は１秒前のことなんて忘れてしまう。
だから、私はそれに従うしかなくて…
「うん…暑いから、上がる、」
『よし、じゃあ、風呂上がるとするか』
ｻﾊﾞﾝｯ――
私の腕を掴んだまま、翔ちゃんが勢いよく立ち上がるから
つられて私まで体が浮き上がってしまいそうになったけど……
いや、ちょっと…待って、
私は翔ちゃんの手をするりと離し、１人お湯の中に体を沈めた。
『なに？ひょっとして、まだ恥ずかしい…とか？』
浴槽の淵に置いたタオルで軽く水気を取り、既にバスタオルを腰に巻いた翔ちゃんが笑いながら聞いてきた。
「だって……」
“お風呂上がる”なんて言ったのは私だけど…
やっぱり、いつもと違うシチュエーションというか…
「あとで、追いかけるから…先に行ってて…」
口の中でモゴモゴと言い訳ばかりを探していた――
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作者名：ミイ
| 作成日時：2015年6月18日 0時
