【陰陽師】邪神と陰陽師の異形な絆【短編集】

籠目の鳥 前 ページ14

数知れない妖怪と鬼が互いに殺傷し合い、死の叫びが響めく残酷な戦の場で、陰陽術の結界が放つ輝きはとても眩かった。


狂気の化け物達に巻き込まれないよう身を護るべく、霊符を使って何度も結界を強化する術者は、生まれてくる世界を間違えてしまったのだと思うくらい美しい人間だ。


服装が男物の装束だから、女性と見誤る美貌を持つ男性なのかなと思った。


でも男性にしては背格好が華奢だから、青年ではなく少年なのかもしれないとも思った。


女性だと気がつけたのは、あの人が術を唱えた時、柔らかそうな唇から紡がれた声音が、何処か遠いところまで届くような神楽笛の音に似ていたから。



「頑張れ」


猿面が見世物を愉しむように呟く。


「可哀想」


そう言う人形達だけど助けに行く気は無いらしい。


「……」


狐面は黙っている。


私も努めて冷静に戦いを眺めていたけど、次の瞬間、嘘のような光景に目を見開いた。



出し抜けに太い腹が地に落ちてきて、結界の近くで暴れていた人外を虫螻のように潰す。


その振動で結界は割れて散ったけど、渦巻いた体躯が防護壁と成り代わるように術者を囲んだ。


空気が鳴り、黒い影が畝り、縦に細長い瞳孔の目玉が睥睨で妖怪と鬼を沈黙させるけれど……それも一瞬の出来事だった。


耳障りな雄叫びを上げ、醜い群れが一斉に強大な漆黒へ飛び掛かる。



「喧しい……」



湿った唸り声が響くと、長い胴体がしなやかに紆曲する。


無惨に薙ぎ払われた妖と鬼があっという間に切断されたかと思えば木っ端同然に砕け、灰と塵になって消滅した。


断末魔がすっかり静まった空間で、重たくて柔らかいものを引き摺る音だけが染み入るように響いている。


これは一体どういう訳なのか……汚れが落とされていくみたいに、真っ黒な鱗が真っ白な鱗へと変わっていく。


巨体が徐々に解かれて、守られていたあの人の姿が見えた。


白銀の大蛇を前にしたあの人は、得体の知れない生物を観想している様子に思えるが、奇跡の降臨に忘我している様子にも思える。

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