「荒海の神子」(拾壱) ページ47
「人になど優しくせず、ただ言うことを聞かせれば良かった」
怒りというよりかは、憐れみに近い声音。
「そうしていれば村の人間共は、思い上がり神の恩恵を冒涜し、報いを受けることは無かったのだろう」
神は如何なる時でも、威厳と落ち着きを保ち、優しささえ隠さねばならない。
そうでなければ、世の秩序を保つことが出来ない。
荒がそう考えるようになったのは、地獄のような場所で一度死んだ過去を持つからだ。
そんな過去を持ちながら、荒は何故わざわざ高天原から都へ降り立ったのだろう。
人が憎いのなら、人に一切関わらなければ良いのに。
何なら、見捨ててしまえば良いのに。
「……あの子は予言を外した自分が悪かったと言い、貴方は人に優しくした自分が悪かったと仰った」
「そうだ……それで間違いない。本来在るべき立ち振る舞いで接することの出来なかった、私の……」
解せない。
そう思いAは唇を噛み締めてから叫んだ。
「どうしてあの子も貴方も、村人達が悪かったと一言も言わないのですか!」
「……」
荒がどんな顔をしているかなんて、気にしている暇など無い。
Aは責めるような口調のまま、まだ少し波の高い海を見つめながら続けた。
「どうして貴方は、人間を憎み愚かだと見下しながらも、未だに私達を正しい方向へ導こうとしてくださるのですか!」
高圧的な態度とは裏腹に、荒は本当に優しい神様だとAは知っている。
「きっと貴方は心のどこかで、人間のことを許してやりたいと思っているのでしょう……?」
荒はますます動揺する。
Aを抱く腕が情けなく震えている。
人間を許してやりたい、なんて、そう思ったことなど一度も無い。
荒が心を許しているのはAだけ。
他の人間のことなど知らない。
虫の良い憶測だと、荒は反論しようとしたが、喉に何か詰まっているかのように声を出すことが出来ないでいた。
何故なのか。
言い返せない節があるというのか。
荒はそっとAの顔を覗き込んでから、顔を歪めた。
「……もう泣くな……」
そう言う荒の方が、泣きそうな声をしていた。
荒は片手でAの目元を覆った。
「あんな軟弱者の為に、お前が涙を流す必要など無いのだぞ……」
まだ自分を卑しめる荒に、Aは怒った。
「私は、貴方のことが大切だから泣いているのですっ!」
「……」
Aの体を包んでいた荒の腕が、糸が切れたように滑り落ちる。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時