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「荒海の神子」(捌) ページ44

Aが眉を潜めても、少年は続ける。


「村の人達が皆言ってた……僕のこと……祟りだとか、嘘つきだとか……」


「貴方は祟りではありません。ましてや嘘つきでも」


少年の瞳に虚ろな影が落とされていくのを見て、Aは語気を強めながら言った。


「僕は……」


「無実なのでしょう? 貴方が私にそう言ったのですよ」


「え……?」


少年はとても困惑しながらAを見つめた。


件の悪夢と混ぜこぜになっている自覚は、ちゃんとある。


自覚しつつも、Aは伝えたかった。


貴方を信じているから、私のことも信じて欲しい、と。



村人達の心無い罵倒の言葉と目も当てられない暴力の中で、孤独に生き孤独のまま海に沈んだ少年。


自分がこの子を守らなければ、誰がこの子を守るのか。


Aは母性にも似た愛情を、この少年に感じていた。


愛を、与えてあげたいと思った。



「大丈夫。いつだって私が付いています。何があっても私は貴方の味方です」



「……!!」



虐げられる日々を生きた少年には、あまりにも温かで優し過ぎる言葉。


それを引き金に箍が外れた少年は、声を上げて泣いた。


Aが少年を抱き寄せようとする前に、少年自らAに縋った。


互いを抱き締め合う姿は、まるで本当の親子のよう。


「僕は嘘なんかついていない……!」


「分かっています」


「何も悪いことなんかしていない……!」


「分かっていますよ」




……そうしてあっという間に夕刻になる。



その頃、ポツポツと小雨が降り始めていた。


日が沈み暗くなるに連れ、雨の勢いは増していく。


皆が就寝しようとする頃には、雷を伴う程の土砂降りとなっていた。



「天気が荒れていますね」


湯から上がり部屋へ戻る道中。


Aの言葉に、付き添いの紙人形は不安そうに頷く。


屋根や蔀戸が猛烈な風雨に突き刺され、ギシギシと嫌な音を立てている。


日中はあんなに晴れていたのに、この突飛な天変地異は明らかに可笑しい。



祟り。



荒の冷たい声が頭を過るが、Aは首を振って否定する。


無邪気な子が祟りだなんて、そんなことがあるものか。


Aは憤りながら部屋の障子を開ける。



部屋にいるはずの少年の姿が、見当たらない。



厠にでも行っているのだろうか、とAは思った。


だがAが用意した寝巻きが布団の上に置かれたままで、すっかり乾いた少年の衣服がなくなっているのを発見し、不穏な焦燥感を覚える。

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作品ジャンル:恋愛
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時

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