【twst】幸福兎はワンダーランドの夢を見るか (ページ3)

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📖0話：兎の独白ページ3

幼い頃の記憶、今でも鮮明に憶えている。

　泣き叫び糾弾する父親、そんな父親に書類を見せながら淡々と説明をする“お父様”の姿。

　結ばれた契約書の中身を、少女は理解することは出来なかった。その紙切れを見せてもらえることはついぞ無かったからだ。

　ただ分かったのは、自分はもう二度と父親とは会えないということ。

　誕生日に買ってもらったぬいぐるみも、友人から貰った手紙も、全てを捨てて、少女は生まれ育った家から連れ出された。

　連れて行かれた大きな御屋敷で、少女は“娘”となるために日夜躾られた。“お父様”はムービースターに憧れていた。しかし己の醜悪な容姿と凡才を知っていたから、才能のある子供を養子に迎えてその子供をムービースターに仕立てようと画策していた。その野望のためには、少女の人格などは必要無かった。

　我儘を言えば叱られた。言う通りにしなければ何度も鞭で打たれた。少しでも“お父様”の意にそぐわないことすれば何時間でも正座をさせられた。太るからと食事は与えてもらえなかった。泣き言を言えば罵倒された。それでも少女は、“お父様”に従うしか出来なかった。

　少女は父親に美しいと梳かしてもらった大切な髪を切られ別の色に染められ、父親に綺麗だと褒めてもらった大切な瞳を隠すように色を変えられた。“お父様”が満足する口調で、声で、服で、仕草で、そうやって“娘”を演じることが、少女に課せられた義務だった。

『いつか必ず白馬の王子様が私を連れ出してくれて私は幸せになれる』

　そんな世迷いごとを信じていた純朴な少女の心身はボロボロに朽ちていった。

　でもそれでいい。構わない。いつかはきっと、いつかは必ず、父親が自分を迎えに来てくれる。そして抱きしめて『会いたかった』『愛してる』と言ってくれるのだ。少女は健気に信じていた。あの日、あの新聞を見る時まで。

　父親には新しく息子が出来ていた。マイケルという名前の彼は、若くして賞を貰うほどに有名な子役俳優となっていた。対する少女は、芽も出ない小役の端くれ。主役を貰ったことなんてない。

　その頃から、“お父様”は少女に無関心になった。少女がいくら努力をしても彼女は名声を得ない。そんな人間に時間を裂くほど“お父様”は暇じゃない。