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「点滴、ありがとうございます。もう不要なので、針を抜いていただけますか？」
「不要か否かは私が決めます」
「身体に余計な液体が入ってくるのをアタシは好みません」
「君は栄養失調気味だ。体重計に乗ったことはあるかい？ 自分の身長の標準体重を調べたことは？ 自分自身の身体の健康について考えてことは？」
「……お説教なら、またいつか聞きますから」
「自己を大切にしない人間には何も守れない。私は再三君に教えてきたつもりだったがね」
「……」
また説教だ、とオズヴァルトは内心辟易した。しかし困ったような笑みを浮かべたまま、その表情を崩さないのは内心を悟られるのが嫌だから。
「点滴を、外してもらってもいいですか？」
「君は大量に出血しました。本来ならば激痛のショックで即死でしょう」
「でもアタシは生きています。それが事実です。ね？ そうでしょう？」
「絵の具は養分にはなりませんよ」
「肝に銘じておきます」
散文のような会話を経て、漸く医院長はオズヴァルトの腕から点滴を外してくれた。針の引き抜かれる感覚に身震いしたオズヴァルトは、早速腹の傷の具合を確認する。骨の浮いた薄い腹には、赤い傷が残っていた。オズヴァルトはため息を一つ吐き出してから、床頭台に置いてある魔法石の埋め込まれた筆を持ち、傷口をなぞる。肌と同じ色の絵の具が肌の上に広がり、傷はみるみるうちに塞がった。
その様子を見ていた医院長は、僅かに顔を顰める。彼はオズヴァルトの“治療”に良い顔をしない。
「再三申し上げるようですが、君が行っている“治療”は世の理に反する行いです。本来ならば死んでいるはずの自分自身を“描く”ことで延命させている。そのしっぺ返しを喰らった時、君は想像を絶する苦痛に苛まれることでしょう」
「……そうですね。頭に入れておきます」
適当な言葉であしらえば、医院長は肩を竦めた。それから彼は、今後の話をオズヴァルトに切り出す。
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作者名：らっこ | 作成日時：2023年1月10日 20時
