◆あなたはいいかもしれないが ページ35
※西畑side
「またや…」
渡された台本には女装の指定。
誰もやらんと自分からやりだしたとはいえ、こうも続くと男としての尊厳が揺らぐ気がするし、自信も無くなるわけで。
そりゃあ自分の女装は可愛い。誰がなんと言おうが可愛いと自負している。その辺の女の子よりよっぽど女の子だ。その辺の自信は育まれてる、いらないほどに。
女装が嫌とかやりたくないとかそういう話じゃなくて……もっと別の、俺の気の持ちようと言いますか。
『西畑やっぱり可愛い』
「元凶…」
『なぁに？俺のこと考えてくれてた？』
「うるさい」
間宮A。同い年の先輩。
なんでか俺の女装すら気に入ってて、可愛いと連呼し誑かしてくる男。
女の俺を本気で口説いてくるし、こいつのエスコートが洗練されすぎて本当に女になったみたいな錯覚に陥る。
先日こいつへの気持ちを自覚してから間宮の行動一つ一つが目に入って仕方がない。
俺を見る表情も、俺に触れる仕草も全部トキメキに変わる。本当に勘弁してほしい、どうしてこうなった。
目が合うと笑いかけてくるところとか含め、ファンが定着し多方面から支持されるのも頷ける。
だから嫌なのだ。こうも女装が続くと、毎回俺ばっかドキドキする。
平然としてる間宮に腹立ちながらもその扱いを受け入れてしまうのは惚れた弱み。
「逆に俺がお前のこと考えてたって返したら気持ち悪いやろ」
『？なんで…？嬉しいよ？』
「は…………」
『西畑がようやっと俺のこと見てくれたってことやんな？嬉しいに決まっとる』
こいつは何もかもプラスに考えすぎじゃないのか。羨ましいその能天気さ。
なんで俺に対してそんな寛容で肯定的なんだ。他のやつは俺にそもそも興味ないのに。
余計なこと考えてたら間宮が目の前にいて、慣れた手つきで腰を抱いてくるから心臓が飛び出そうになる。
がんばれ西畑。ここで慌てふためいたらチェリーなのがバレる。余裕を持て、間宮に負けない心強さを持て。
バクバクと心臓が高鳴る。ウィッグや化粧で赤いのが誤魔化されてるのを祈る。
『あれ？また痩せたんとちゃう？』
「成長期や。背伸びたの」
『嘘や。ヒールで高なっとるだけ』
「なんでお前にそんなんわかんねん」
『そりゃあ西畑のことずっと見てるし』
「キモ…」
照れ隠し。
嬉しさが大きくなるにつれこいつへの反抗心が膨れ上がる。素直になれない思春期、俺が大人ならスマートに対応して間宮のことを軽くあしらってるはずだ。
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