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そのまま会話が続くことはなく、波音と呼吸音だけが耳に届く。
いつも通りの時間、心地の良い場所。
野上の顔、冗談って感じじゃなかったな。
……え、これ自惚れていいの？
野上って結婚願望薄いと思ってた、なんか嬉しいな。
思わず口が緩んでしまい、はっと手で押さえる。
野上って平気でとんでもない発言をする、心臓に悪い。健康には良い。
野上が俺に人生を委ねてくれれば、離れなくてもいいのに。
野上には野上の未来予想図があって、俺なんかが邪魔できるものでもなく。
冷静になればお家柄的に子孫繁栄をしなくてはならない。
が、しかし今の両親は失敗してるんだし俺が復活させなくてもいいのでは。
ああ、これが親不孝の思考。
野上が俺の秘書にでもなってくれればいいのだけど、それじゃあ公にお付き合いは出来ないか。
……野上、秘書検定余裕で受かりそう。
でも野上を部下にしたくないな。いつまでも対等でいたい。
やはり結婚するしかないのだろう。
結婚しよう、もうそれしかない。
「……い、おい」
『……』
「おい」
『、あ。どうしたの』
思ったよりも現実時間で黙り込んでたらしく、野上が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
相変わらず長い睫毛から光る瞳は嘘のない綺麗な色をしていて、吸い込まれるように顔を近付けた。
『かわいい』
「元気そうだな」
『ねえ、俺の話聞いてくれる？』
「ああ」
身の上話は慣れてない分、意外と勇気がいるもので。
あんなに簡単に自己を語るあの先輩の尊敬すべき点を見つけた気もする。
「…いや、待て。もうすぐ点呼だ」
『げ、はあ…帰ろっか』
「いいのか」
『うん。また今度聞いて』
いざという時ほど間が悪い。
話を聞きたそうな野上に手を差し伸べて引っ張り立たせる。
ゆっくり話す時間はまだまだあると思っていた俺も野上も、この後起こる事件にまだ気付いていないのだった。
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