chapter*2-3...初恋の再来 ページ10
.
ところ変わって連れてこられたのは、この辺りで有名な喫茶店だった。怪しいところにでも連れていかれると思っていた私は、店を目の前にした時それはもう間抜けな顔をしていたんだろう。だってまさか、名前も知らない男にこんな、こんな喫茶店なんかに連れてこられると誰が思う? これならまだ薄暗い倉庫に連れていかれた方が納得出来る。嫌だけど。
僕の奢りだから。そう言って無抵抗になった私を店の中に引き入れた男は、提供された水に手をつけることなくメニュー表と睨み合っていた。
長い足は組まれていて、それでもテーブルより高さを持っている。そのせいでテーブルと離れた椅子は、何かが届いたとしても食べにくそうだなぁ、なんて。
女性客の多いこの店に男一人で入るのに抵抗があったんだろうか、と連れてこられた理由を考えてみたりする。でもこの顔ならそこら辺の女性なら引っかかりそうだけど、わざわざ私を選んだ理由がわからない。私でなければ抵抗もなくすんなり行けたものを。いや、知らんけどね。
「きーめた!」
ぱたん、とメニュー表を閉じた男は、次いですみません、と店員を呼び付けていた。
「待ってください! 私まだ決めてないんですけど!?」
「僕が決めておいたよ」
「おいコラ」
メニュー表を奪おうとしたところで、愛想のいい店員がやって来る。男はメニュー表を指さしながらペラペラといくつも商品の名前をあげて、こちらの様子なんて見ずに以上で、と締め括った。ふざけんな。
「もし私にアレルギーとか食べられないものがあったらどうするんですか」
「ないでしょ」
「ないですけど!? でも好きなの食べたかった!」
「だろうね」
ケラケラと笑う男に、膝の上で拳を握った。他の席に並ぶものはどれも美味しそうだから、奢りならいっか、って、思ってたのに。追い出されるのは嫌だから抑えてるけど、もし私が考え無しだったらぶん殴ってた。感謝して欲しい、私が理性のある人間だったことに。
はぁ、と本日二度目のため息を吐いて、そういえば、と口を開くと、話を聞く気はあるのかじっとこちらを見つめてきた。……顔がいい。
「おにーさん、名前は?」
「……言ってなかったっけ?」
「そうですね」
.
chapter*2-4...初恋の再来→←chapter*2-2...初恋の再来
625人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
希乃夏(プロフ) - pixivでも見させて頂いていたものです!!占いツクールでも公開してくださりありがとうございます!!更新頑張って下さい!! (2021年3月22日 12時) (レス) id: 1e5270c5a5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:仁篠。 | 作成日時:2021年3月22日 11時