第162話「失われた惨劇と記憶」 ページ37
“紅桜姫”
その言葉を見た瞬間，ドクンと心臓が傷んだ。
胸に手を当て，蓮華は黒曜石の石碑から目が離せなくなる。
『この感覚は……知っている』
最近何度も見たあの夢。
目が覚めると懐かしいような，喪失感に苛まれるあの感覚。
それに気付いてしまった彼女は一筋の涙を流した。
「え，何で………どうして………」
刻まれた文章を見る限り，この石碑の下にいる女性の兄弟が作った墓なのだろう。
石碑の傍にはまるでお供えするように青い柄の太刀が置かれていた。
『見て！もう満開よ！』
「！！」
太刀に触れた瞬間，誰かの声が聞こえた。
それに伴う頭痛に頭を抑えると，また次々に映像が流れてくる。
『走ると転ぶぞ』
『子供扱いしないで頂戴』
「これは………誰かの記憶？」
満開の桜を見てはしゃぐ少女とそれを宥める青年。
そして二人は向かい合い，幸せそうに笑う。
『私達，ずっと一緒よね？』
『死ぬまで一緒だ』
しかしその約束は打ち砕かれる。
場面は変わり，雲が空を覆い雨が降っていた。
朽ちた骸に囲まれながら，少女と青年は対峙する。
「これは，あの夢の光景？」
幸福そうに笑っていた二人は，何故か刀を打ち合って戦っていた。
少女は狂気的な笑みを浮かべ，青年は必死な表情で少女の刀を受け止める。
「！」
瞬間，少女の刀が青年の右腕を斬り落とした。
彼がよろめいた隙に再び刀が左脚を斬り落とす。
「そんな……」
少女はふらつきながらも踏ん張り，顔を見上げて不気味に笑った。
『うふふ…あはははははははははッ！』
「え……」
蓮華はただ絶句していた。
少女が起こした凄惨な光景にではなく，“赤い髪”の少女と“一部分だけ赤い黒髪の”青年の姿に。
「白い襟巻きの彼と………私？」
「その通りです」
その言葉に我に帰る。
思わず振り向くと，ロシア帽を被った紫の瞳の青年が立っていた。
「それは，失われた貴女の記憶です。
血に染まり，愛した者さえもこの手で殺めた，罪深き惨劇」
「………貴方は誰？」
「ぼくはフョードル・ドストエフスキー。
地下組織《死の家の鼠》の頭目です。以後お見知り置きを，花柳蓮華さん」
「私をご存知なのですね。それで？頭目殿が態々何の御用？」
這い上がる悪寒と恐怖に表情が強張る。
恐らく上手く笑えていないだろう。
「貴女を迎えに来たのですよ，吸血鬼，紅桜姫」
第163話「朽ちた吸血鬼」→←第161話「似た者同士の会合」
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星木雪野(プロフ) - 北見梨衣さん» コメントありがとうございます！気に入って下さって何よりです！ご心配をお掛けしますがこれからも宜しくお願いします！ (2020年3月26日 0時) (
レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
北見梨衣(プロフ) - 体調大丈夫ですか？いつも楽しく読んでます！更新できる時にして無理しないでください。待ってます！ (2020年3月25日 23時) (レス) id: 9b1e229f39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星木雪野 x他1人 | 作成日時：2020年1月11日 0時
