吸血姫は桜の木の下に舞う

第43話「踊り狂いし吸血姫」 ページ45

血液で作られた刀を構え、蓮華は芥川に斬りかかる。



「『羅生門』！」



再び黒獣が彼女に迫る。
だが蓮華は襲いくる黒獣を次々と斬り刻んだ。



「はあぁッ！」



刃が芥川の肩口を掠めた。
少し遅れて黒い外套に血が滲み、ジュウッと音を立てた。
彼女の血による毒が傷口からまわっているのだ。



「芥川先輩！この！！」



樋口が蓮華の方に銃口を向ける。しかし、



「遅いですよ」

「！？」



樋口の背後を取り，両手を拘束して床に押さえつける。
蓮華は獲物を狙う獣のような瞳で舌舐めずりした。



「背後ががら空きやで」

「ぐぁッ！」



言葉を遮り、容赦無く樋口の首元に噛み付いた。
樋口は反撃しようと試みたが、血を吸われてる所為で身体に力が入らなかった。



「何をやっている樋口！」



その瞬間黒獣が蓮華の脇腹に噛み付き、壁に叩きつけられた。
二重の痛みが全身を襲う。



「最初は冗談かと思ったが…本当に血を啜るとは」

「何の……話…？」



蓮華は脇腹を抑えながら芥川を睨んだ。
ぎらりと輝く紅い瞳に芥川は愉快そうに口角をあげる。



「ですが“吸血鬼”なんて、そんなもの本当に……」

「異能故か否かは判らぬが、殺すには惜しい娘だ。
あの異能も裏社会では役に立つだろう」



異能力。
今，煙を上げながら地面を溶かす自分の血が。
先程，刀に変化して振るった自分の血が。
殆ど無意識に振るった其れが自分の異能力。



「はぁ………ぐっ………」



身体も重いし、頭も痛い。
何とか立ち上がろうとしても上手く力が入らなかった。
どうやらこの力は血を消費する為，貧血になりやすいらしい。
一か八か……と考えていたその時だった。



バキッゴキッ



「何ッ………」



聞き覚えのある音だった。
顔を上げると壁に敦が張り付いていた。
然もいつかに見た美しい白虎の姿になって。



「そうこなくては」



芥川はまた愉快そうに笑った。
朝焼け色の瞳が開眼し，虎は咆哮する。
芥川と虎の盛大な戦いが始まった。
その隙に、蓮華は倒れている谷崎達の元に近付く。



「良かった。まだ二人共息がある……」



今ならすぐに手当てすれば助かるだろう。
そう安堵しているのも束の間、自身の身体も再び痛み始めた。



『痛みには、慣れたつもりやったのになあ』



血塗られた手の平を見ながらふと思った。
そしていよいよ勝負も大詰めになったその時、



「はぁーい、そこまでー」



砂色の外套がゆらりと揺れた。

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