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第40話「白い虚無の世界にて」 ページ42

____起きろ



何処からか鼓膜を揺さ振る声がする。
それは何処か聞いた事のあるような、ぶっきらぼうで優しい声だった。



____早く起きろ、この妖怪人間

「………ッて誰が妖怪人間や!」



暴言に腹が立った蓮華は声をあげて起き上がった。
だが目の前の光景に彼女は息を呑んだ。



「此処は………」



其処には、何も無かった。
白い壁と床が何処までも広がる虚無の世界に蓮華は倒れて居たのだ。



「その様子じゃあ大丈夫か」



目の前に居たのは白い襟巻を巻いた青年。
だがその表情はフードと襟巻で見えなかった。
見えるのは左側に牙がある口元のみ。



『この人………何処かで………』

「聞きたい事は沢山あるだろうが時間がない。これを見ろ」



そう云って彼が指差したのは足元にある大きな鏡だった。
其処には先程まで居たあの路地の風景がぼんやりと浮かんでいた。



「敦と、芥川………」



その光景は丁度敦が芥川を銃で攻撃していたところだった。
だが彼には銃弾が一つも届いて居なかった。



「な、何故銃弾が……?」

「奴の操る黒獣は凡るモノを喰らう。
それは“空間”であっても同じ事だ」

「空間?!……成る程、銃弾が届くまでの空間を一部削ったのですね」

「御名答」



男は満足そうに口角を上げた。
だが鏡の中に映る敦は攻撃の仕様がない事を知り、絶望に満ちた顔をしている。



[そして僕、約束は守る]

「!!」



その瞬間、芥川の黒獣が敦の右脚を喰いちぎった。
鏡の中で敦の悲鳴がこだました。



「敦ッ!早く行かないと………」

「行ってどうするんだ?」



立ち上がった蓮華に青年が云う。
その言葉に彼女は青年を睨み付けた。



「決まっとるわ!敦達を助けに行くねん!」

「吸血鬼の力を使っても奴に歯が立たなかったお前に何が出来るんだ?」

「な、何で貴方がその事を知って……」

「今のお前は誰も救えない。お前は何処かで人を見下している」



その言葉は彼女の心に深く突き刺さった。
強く握った拳から血が滲んだ。



「己の弱さを自覚せず、自分が何よりも強いと思ってる。仲間の危険も察しておきながら救えなかった」

「……黙れ」

「そんな奴に人を救えるとは俺には到底思えんがな」

「黙れって云ってるやろうが!!」



瞳を真っ赤にした蓮華は青年に飛びかかった。
その表情は今にも泣きそうだった。

第41話「その者、天使か、悪魔か」→←第39話「彼女の生きる意味とは」



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設定タグ:文スト , 原作沿い , 吸血鬼   
作品ジャンル:アニメ
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星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!気に入って貰えて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年7月31日 21時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
赤砂晋助(プロフ) - この話好きやけんこれからも頑張ってください! (2019年7月22日 9時) (レス) id: 5ddd851753 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - 三輪さん» 実はそうなんです!バリバリの関西弁ではないのですが、気に入って貰えて何よりです!これからもよろしくお願いします! (2019年6月24日 15時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
三輪 - 吸血鬼ネタ最高です……!蓮華ちゃんが可愛い。。それとつかぬ事をお伺いしますが、作者さまは関西圏出身なのですか?方言が刺さります! (2019年6月24日 15時) (レス) id: e6d66e6ea7 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!!私も吸血鬼ネタが大好きで作りました!これからもよろしくお願いします! (2019年6月2日 23時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星木雪野 x他1人 | 作成日時:2019年6月2日 17時

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