吸血姫は桜の木の下に舞う

第19話「彼女の独白」 ページ21

「や、やややややめなさーい！親御さんが泣いてるよ！」

「面倒くさいからさっさと人質解放してくれませんかね」



緊張で噛みまくりの敦と、無表情な蓮華が登場する。



「何だアンタ等ッ！」



太宰の作戦は社員でなく顔も割れていない二人が爆弾魔を引きつけ、その隙に対処するという物だった。



「ぼぼ、僕はさ、騒ぎをき、聞きつけた一般市民です！
いい、生きていれば好いことあるよ！」

「誰だか知らないが無責任に云うな！
みんな死ねば良いンだ！」

「そうですか」



ふと少女が呆れたような溜息を吐いた。
周囲の視線が自分に集まるのが判った。



「貴方の気持ちなんて知ったこっちゃ無いし、貴方の言う通り無責任だとは思うけど」



何処か吸い込まれそうな真紅の瞳は、真っ直ぐに爆弾魔を捉えている。



「“死ぬ”ってどういう事か、本当に判ってるん？」



彼女は知っている。
腹にナイフを突き立てられた時の痛みを。
死を目前とした時の恐怖を。



「生きる事が辛いんも、人を殺したいくらいの憎しみもよう判る。
だけど此処で恨み晴らして自分も死んだ所でどうなるん？」



死にたいと思う事など何度でもあった。
人として生まれた筈なのに吸血鬼と化して，誰にも受け入れられず拒絶され続けた。
でも，結局は生きる事を選んだ。自分の意思で。



「何も変わらんし、何も得られへん。
なら此処で死ぬなんて勿体ないと思わへん？」



すると少女はふと優しい表情を浮かべて微笑んだ。
それはまるで天使のようだった。



「生を受けたんなら精一杯その生を謳歌しな」



人生，何が起こるか判らないものだ。
ちっぽけな事でも救われる事がある。
彼女の言葉が重く響き，爆弾魔は彼女の説得に言葉を失った。



「辛い事やろうけど、その方が幾分か素敵やから」



爆弾魔が完全に油断した瞬間、蓮華はパチンと指を鳴らした。
それを合図に国木田が飛び出した。



「手帳の頁を使うから、無駄撃ちは嫌なんだがな…！」



彼はガリガリと手帳に文字を書き込むと、その頁を破り取った。



「『独歩吟客』」



頁が青白い光を放ち、鉄線銃に変化する。



『手帳の頁を物に変化させる異能力か』



国木田が鉄線銃を使ってスイッチを弾き飛ばす。
そして取り押さえようと動いた………が、


ゴッッ


蓮華が爆弾魔の懐に入り、ハイキックを食らわせた。
細い脚が頭にヒットし，壁まで吹っ飛ばされる。



「一丁上がり」



彼女は得意げに笑ってみせた。

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