第9話「月下獣、此処に降臨」 ページ11
「経営が傾いたからって傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ」
「あ,………確かに経営の関係で児童を追放するんやったら敦さんだけじゃどうにもならへん」
何かに気付いた蓮華は静かに言葉を紡ぐ。
太宰はその様子に楽しそうな笑みを浮かべた。
「私やったら半分くらい減らして別ん処に移す」
「うん正解。美しい上に聡明なのだねえ」
「………恐れ入ります」
蓮華は我に返り顔を背けた。
矢張り彼は苦手だ。まるで自分を見透かされているようで落ち着かない。
敦は二人の云っている事が判らず、ただ混乱していた。
「二人共何を云って________」
その時、敦の動きが止まった。
彼の瞳が満月を捉えて離さない。
「敦、さん…?」
「危ないから近づいてはいけないよ」
歩み寄ろうとしたが太宰に腕を掴まれた事によってそれは叶わなかった。
すると敦は突然苦しみ始める。
「彼が街に来たのが2週間前、虎が街に現れたのも2週間前。彼が鶴見川べりにいたのが4日前、同じ場所で虎が目撃されたのも4日前」
敦の骨格が変形していく。そして人間でない“ナニカ”に変わっていく。
蓮華はこの光景に戸惑いを隠せなかった。
「まさか…これが国木田さんの云っていた……?」
「そう、巷間には知らされていないがこの世には異能の者が少なからずいる。
その力で成功する者もいれば、力を制御できずに身を滅ぼす者もいる」
そこには一匹の獣がいた。
朝焼け色の瞳が鋭い光を放つ。
「もしかして、施設の方々はそれを知っていて…」
「そう、彼だけが解っていなかったのだよ」
月光の下でそれは降り立った。
蓮華は思わずそれを綺麗だと感じた。
「君も『異能の者』だ。
現身に飢獣を降ろす、月下の能力者_____」
白いたてがみ、鋭い爪と牙、大きな体躯。
嗚呼、自分と違いなんて美しいのだろう。
「白虎________!」
虎はギラリと目を開くと、咆哮して襲いかかって来た。
太宰と蓮華はそれぞれ反対方向に回避するが虎の力は尋常じゃなかった。
『あんなの生身の人間が敵うわけない…』
口惜しい事に吸血鬼である彼女もあれに対抗できる手段は無い。
思わずぐっと唇を噛んだ。
「蓮華ちゃん、上!」
太宰の声に我に返ると虎が衝突したせいで崩れた木箱がこちらに落ちて来ていた。
『嘘やろ』
目を伏せた瞬間、何かに強く引っ張られた。
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星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!気に入って貰えて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年7月31日 21時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
赤砂晋助(プロフ) - この話好きやけんこれからも頑張ってください! (2019年7月22日 9時) (レス) id: 5ddd851753 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - 三輪さん» 実はそうなんです!バリバリの関西弁ではないのですが、気に入って貰えて何よりです!これからもよろしくお願いします! (2019年6月24日 15時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
三輪 - 吸血鬼ネタ最高です……!蓮華ちゃんが可愛い。。それとつかぬ事をお伺いしますが、作者さまは関西圏出身なのですか?方言が刺さります! (2019年6月24日 15時) (レス) id: e6d66e6ea7 (このIDを非表示/違反報告)
星木雪野(プロフ) - ありがとうございます!!私も吸血鬼ネタが大好きで作りました!これからもよろしくお願いします! (2019年6月2日 23時) (レス) id: 9c0b08827d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星木雪野 x他1人 | 作成日時:2019年6月2日 17時