六話 ページ11
まぁ、本当に簡単な付け合わせという感じのご飯になってしまったが、一日に必要なカロリーを取る分には十分な料理は作ったはずだ。
「これをまた芥川の部屋に運んでと…」
料理の皿をお盆に乗せて運ぼうとする。
その時一瞬、
「……」
あの台本が視界に入った。
本当に、彼があの……。
私は考えるのをやめてお盆を持ち、リビングを出た。
◇
部屋に入った時、芥川はちゃんと寝台で横になっていた。
「なんだか介護士の気分だ」
「僕はまだ介護されるほど歳を取っていない」
どうやら既に起きていたらしい。
彼は寝台からゆっくり起き上がった。
「ほら、簡単なモノですがどうぞ」
「感謝する」
そう意外に素直に感謝されてしまった。
私は寝台近くの卓の上に料理を乗せたお盆を置いた。
その時、少しばかり悪戯心が湧いてしまった。
「ねぇ芥川」
「……?」
「もし辛いなら食べさせてあげようか」
なーんて、私はかなり冗談めかして言ったつもりだった。
だがそれに反して彼は意外な反応をした。
「あゝ」
そう言って箸に手をつけず顔をこちらに向けて動かなくなった。
まるで本当に私が食べさせるのを待っているかのように。
(えっと、あれ…?)
おかしい。
相手にも冗談として伝わっていたと思っていたのに、まさか真に受けているだなんて。
しかし、言ってしまったことには仕方ない。
「えと…はい、どうぞ」
箸で掴んだお菜を彼の口まで運んでいくとパクッとそれを口にした。
うーん、これはどういう状況だ?
彼が咀嚼し、飲み込んだのをみるとまたさっきと同じように料理を食べさせる。
「もぐ……上手い」
「それは、良かったです」
そんな私にとって、微妙に居心地の良くない時間がしばらく続いた。
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作者名:ユーリ | 作者ホームページ:設定しないでください
作成日時:2021年6月19日 19時