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「ほら、もう泣くな。大丈夫だから。」
涙を拭うようにしていた指が、するりと頬を撫で、手のひらで包み込み柔らかい雰囲気に纏われた。
テレビの中の惨状がどうこうなることはなかったが、怖いとただ考え、そして苦しんでいた私を落ち着かせたのはやっぱり目の前にいる彼だった。
物間「ヒーローはいつでも笑顔でいるんだろ？」
彼は両の指で口角を無理やり上に押しあげる、私の口を。
「だ、って……」
物間「だっても何もな。」
口を無理くり抑えられて上手く言葉が発音できない私を、笑う彼の様子がなんだかとても愛おしかった。
それはなんとなく彼の言いたいことが察してしまえるからこそ、でもあったけど。
花宮「はーなーしーてーーー、もう泣かないから」
物間「別に、泣くなとは言ってないだろ…？」
花宮「もう！！！」
揚げ足を取られている、どうにか私だってやり返したいのに……
「！！！」
病院内、もう病院全体に響くんじゃないかって思うぐらいの声が聞こえてきた。
物間くんが私のことを気遣ってテレビの音量を小さくしてくれていたみたいで、近くにあったリモコンでいくつかボリュームを上げた。
”「オールマイト、勝利のスタンディングです！！！」”
テレビ越し、すっかり見る影もなくなっていた神野区の街並み。
瓦礫や土埃の中から左手を天に突き上げているオールマイトのがあった。
花宮「ね、勝ったの？」
物間「あぁ。」
花宮「……やっぱオールマイトはかっこいいね」
さっきとは違くって、その姿は私たちの良く知っているオールマイトだった。
”「次は、君だ」”
テレビの中から最後に聞こえてきたのは、オールマイトの声だった。
そこにはもう私の知っているオールマイトはいなくて、身体が小さく、細くなっている彼の指はテレビの向こう…つまり私たちを指さしていた。
物間「これで、また色々なこと変わってくるだろうね」
何を考えているのかわからない、どこか儚さを含んだ表情で彼はつぶやいた。
その答えが分かったのは、退院してから数日後のことだった。
ピンポン
世間の空気とは裏腹に、家のインターフォンは陽気な音色で来客を知らせる。
花宮「……は、は−い！今行きます！！」
複雑な表情をして１枚のプリントを見つめている父の姿を横目に玄関の扉を開いた。
花宮「こんにちは、先生」
相澤「あぁ、こんにちは。」
今日は、雄英高校の全寮制導入検討についての家庭訪問だ。
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作者名：sun x他1人 | 作成日時：2023年10月5日 2時
