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「……誰が」
甲斐丸がぼそりと呟いたのと、脱衣場の扉が閉められたのは同時だった。
タカ丸に申し訳ないと思いながら、甲斐丸は複雑な髪をできるだけ素早く解いた。
紺碧の小袖を脱げば、中からは見慣れた深緑が顔を出す。 忍び装束だ。 甲斐丸は上衣についた沢山のポケットから頭巾や脚絆、手甲などを取り出し、捲っていた裾を整えた。 髪の毛をさっと適当に結うが、タカ丸よりも、仙蔵に結われるよりも、酷くアラが目立ってしまう。
それに小さく息を吐いてから、頭巾を身につけた。
全ての装備を終わらせると、懐に手を突っ込んで、甲斐丸は小さめのかけを取り出した。 かけ。 弓を引くにあたって、それもまた重要なもの。
(────忍びだ…… あの男、)
かけを見つめながら、先程の男のことを甲斐丸は思い返していた。
鋭い瞳。 一瞬、確かに甲斐丸と目が合った。 その瞬間を思い出すと、自然と甲斐丸の背筋が冷えた。
(あの、男…………)
だがそれと等しく、血が沸き立つ程の闘志が身体中を駆け巡ってくる。
甲斐丸はかけを優しく握り心臓のある左胸へと重ねると、深く深呼吸をした。 そうして、顔を上げる。
かけを上衣の内側に仕舞って、甲斐丸は一度風呂場へと入った。
ばしゃばしゃと、適当に音を立てる。 こうして今自分は入浴しているのだと、そう外に思わせる。
浴槽の縁に立って、木で簡易に遮られた木窓から外を盗み見る。 こちら側に見張りはいないようだ。 なんとツメが甘い、と思いながら、甲斐丸は小しころを取り出すと、ゆっくりゆっくり木を引き切り始めた。 静かに。 夜風に吹き消される程に、シンと。
木くずがさらさらと下に落ち、湯の上へ浮かぶ。 そんなことを気にもとめずに引き切り続け、甲斐丸はようやく自身の体が通れそうな程の空間を作り出すことに成功した。
そこからするりと脱出をすると、甲斐丸は湯殿の屋根の上に飛び上がった。
弦月が夜闇を頼りなく照らしていた。
甲斐丸はまず、扉の前で談笑をしながら見張りとは言い難い仕事をこなしている男二人を、上から降りる衝撃と共に当て身を食らわせ眠らせた。
二人の倒れる音に、なんだと気だるそうに母屋から姿を現したもう一人の男には、欠伸をしている隙に鳩尾に膝を入れた。
その三人の男を脱衣場に運び込むと、甲斐丸をぐるぐるに縛っていた縄で仲良く後ろ手を縛ってやった。
これで一応、甲斐丸をここまで連れてきた男共は当分目を覚まさない。 しばらくは自由に動き回れる時間が出来た。
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星月夜(プロフ) - 空桜さん» コメントありがとうございます！！ドキドキしていただけてとっても光栄です！ 嬉しいです〜！ これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします〜！ (2020年2月2日 10時) (
レス) id: a4d6640b48 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 四年生との絡みが一番好きです(*´-`) これからの展開が読めなくて毎回ドキドキしながら読ませてもらってます (2020年2月1日 20時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年10月22日 13時
