＊ 2021/10/18 ページ28
するとその時。
「甲斐丸！！」
力強く名前を呼ばれて、甲斐丸は振り返った。 そこには、こちらに向かって来る文次郎と守一郎がいた。 文次郎の手には、甲斐丸の竹弓と矢がある。
それにはっと息を呑んで、甲斐丸は何となく察した。 懐からかけを取り出して、急いで指にはめる。 やはり少し小さく、窮屈なそれ。
次いで小平太が肩から手を離し、後輩二人を連れて甲斐丸から距離をとった。
ほいと、文次郎から弓と矢が放られる。 右手に矢を、左手に弓を。 甲斐丸は簡単に受けとると、すぐに構えた。
そう、文次郎は忍術学園に着くと、甲斐丸の部屋に寄り、彼女の竹弓と弓を数本持ってきていたのだ。 伸寸の弓をずっと、布に包んで背負っていたのだ。
「ありがとう、文次郎」 甲斐丸は小さな声で告げた。 文次郎に、その声が届いたかは分からない。 体制を整え、狙いを定めて、ぐ、と弓を引く。
「────穿て！！」
文次郎の声が鼓膜に届くと同時に、甲斐丸は手を放した。 手の中で、弓がくるりと回転する。 これを弓返りという。 これにより矢は、より速度を増して一点に向かってゆく。
その姿を、皆はじっと見つめていた。
すぐ、矢の飛んでいった方から、「ギャッ！」という短い悲鳴が聞こえた。
「おっ、やったな」小平太が言う。 ふう、と甲斐丸は息を吐いた。 安堵からだろう。
「視界が悪かったから、狙ったところに当たっているかは分からない。 早く行って捕縛した方がいい」
「上出来だ」
「どこ狙ったんですか？ 先輩」
「脚の腱」
「それ当たってたら逆に人間やめてるぞ、お前」
「甲斐丸！」と後ろから名を呼ばれて、振り返る。 仙蔵や教師たちだった。
ああ、ちょうど色々と終わったところです、と口を開きかけた時、鉄砲玉のように飛び出して、あっという間に目の前に来た伊作に再び肩を掴まれる。
「お前！ お前は！！ 全く！！ そんな体で弓を引くんじゃない！！！」
あまりの気迫に、甲斐丸はただ一言、「はい……」と言う他なかった。 あと揺さぶられるのが地味にキツイ。
その後、火の燃え移った瓦礫の山を縫うように避けて、甲斐丸たちは城主を捕縛した。 その間に、八左ヱ門や兵助といった今まで会っていなかった面々とも合流した。 尚も、城の爆発により人が集まってくる。
そうして、文次郎は言う羽目になった。
「お前人間やめてる」
甲斐丸の射った矢は、ばっちり右足の腱を捉えていたのだった。
続く
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星月夜(プロフ) - 空桜さん» コメントありがとうございます！！ドキドキしていただけてとっても光栄です！ 嬉しいです〜！ これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします〜！ (2020年2月2日 10時) (
レス) id: a4d6640b48 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 四年生との絡みが一番好きです(*´-`) これからの展開が読めなくて毎回ドキドキしながら読ませてもらってます (2020年2月1日 20時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年10月22日 13時
