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甲斐丸は、少し逡巡するように押し黙って、喜八郎の瞳を真っ直ぐに見つめていた。
だがやがて、「そうか」と頷くと、「行こうか」続けて進行を促した。 喜八郎は、それに「はい」と返事をする。 まるで、なんでもないふうに。
二人は、井戸を目指して再び駆け出した。
少しの間走り続けると、井戸の輪郭が見えてきた。 そこで、何やら声を張り上げて、慌ただしく動き回っている人物がいる。
(文次郎だ……)
(潮江先輩だ)
甲斐丸と喜八郎は、同時にそう認識した。 その近くで同じようにわたわた動いているのは、可哀想な守一郎であろう。
ようやく合流だ、と思った時。
「甲斐丸！」
「小平太、滝夜叉丸」
後ろから小平太と、辟易した滝夜叉丸が二人に追いついてきた。 そして早々と、「この城、ちょっと不気味だぞ」と言った。 喜八郎は、「どこが？」と言いたげに小首を傾げたが、甲斐丸は、どこか気がついているような様子で「何かあったのか」と訊いた。
「ああ、私たちはさっきまで、留三郎と一緒に城の備蓄品が置いてある蔵に行っていたのだ。 留三郎が言うには、"最初から戸が薄く開いていて、覗いたら中が空っぽだったものだから気になった"らしいのだが……」
「ああ、その蔵ならわたしも見た。 備蓄品の帳簿がきちんとつけられているにも関わらず、そこに記載されている品は一つもなかった」
「なに？ 帳簿だと？ そんなもの……」
「少々拝借している」
ス、と甲斐丸は懐から和綴じの手帳を取り出した。 "カエンタケ城西蔵備品一覧"と表紙に記入してある。 小平太はにっと笑った。
「流石だ！」
「それで？」
「ああ。 それで、念の為私たちであの辺の建物を調べたのだ。 そうしたら、どこも空。 武器までもすっからかん」
「……武器も？」
「ここの足軽を見たか？ あいつら、数人は種子島を持っていたが、ほぼ全員丸腰だったんだ。 そんな足軽がいるか？」
甲斐丸の背中を、嫌な汗が伝った。
そんなことがあるのか。 確か、今日の朝までは、足軽たちは誰も彼も武器を装備していた。 恐らく、農具を装備していた農民らは皆逃げたはず。 なので、残りはきちんと装備を整えた足軽しかいなかったはずだが……… ああ、覚えていない。
でも、そうか。 戦う音があまりしないのには、納得がいく。
「これは、まさか……」
甲斐丸は俯いた。
「それで七松先輩、食満先輩はどうされたんです？」
静かになった甲斐丸をよそに、喜八郎が小平太に訊いた。
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星月夜(プロフ) - 空桜さん» コメントありがとうございます！！ドキドキしていただけてとっても光栄です！ 嬉しいです〜！ これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします〜！ (2020年2月2日 10時) (
レス) id: a4d6640b48 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 四年生との絡みが一番好きです(*´-`) これからの展開が読めなくて毎回ドキドキしながら読ませてもらってます (2020年2月1日 20時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年10月22日 13時
