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甲斐丸は、腕を支えられたままゆっくり膝から地面に着く。
「……すまない。 大丈夫だ」
「謝られても嬉しくないですよ」
「ありがとう、喜八郎」
そう告げた甲斐丸に、喜八郎はちょっと照れくさそうな表情をした。 心做しか少し、機嫌がよくなったようにも思えた。
喜八郎はふいっとそっぽを向いてから、「先輩立てます？」と尋ねた。
「ああ、立てる」
「痺れ、ひどいんですか？」
「…………そうでも、ないと思っていたのだが」
言葉を濁した甲斐丸に、ああ、ひどいんだな。 と喜八郎は思った。 すっくと立ち上がった甲斐丸を見て、喜八郎は無表情で何かを考える素振りをしてから、「じゃ、行きましょう」と甲斐丸の前を駆け出した。
甲斐丸がそれに頷いて、喜八郎の後ろについた瞬間。 パン！ と辺りに響いた種子島の発砲音。 甲斐丸はそれに、はっと息を呑んで、足を止めた。
「今のは、三木ヱ門の、いや敵の……？ 白谷先輩、行ってみますか？」
「…………」
「……先輩？」
何も反応を示さない。 喜八郎は違和感を感じとって、振り返りながら甲斐丸を呼んだ。 彼は、思わず瞠目した。
甲斐丸は、とうとう本丸をも呑み込んだ炎をその硝子玉の瞳に映しながら、悲壮に顔を歪めていた。 涙こそ出ていないが、まるで泣いているように。
そんな甲斐丸の顔を、喜八郎は初めて見た。 どうしてそんな切ない表情をするのだと、喜八郎の胸までもが締め付けられた。
やがて、甲斐丸は緩慢に瞬きをした後、何か、音もなく唇だけを動かした。 はくはくと。 喜八郎は、もう声を出すことも憚られて、ただそれを見つめていた。
何を、言ったのだろうか。 喜八郎が、一歩甲斐丸の方に踏み出した瞬間。
「白谷先輩！！」
甲斐丸の名を呼ぶ変声期前の高い声と、駆けて来る足音が聞こえて、喜八郎はばっと振り返った。
「……三木ヱ門」
鉄砲を担いだ三木ヱ門だった。 彼はひどく慌てた様子で二人に駆け寄ると「喜八郎、お前もいたのか！」と流石の一言を発した。 ハイハイ、どうせ自分はおまけだ、といわんばかりに、喜八郎は口をへの字に曲げる。
「あ、それよりも白谷先輩！ 大丈夫でしたか？」
「あぁっちょっと三木ヱ門……」
「……三木ヱ門？」
「はい、私ですよ先輩！ あなたのアイドル、田村三木ヱ門です！」
「はあ？ 何言ってんの」
そう言って可愛くポーズを決める三木ヱ門に、喜八郎は不愉快そうに眉を顰めたが、それに反して甲斐丸はクスリと口角を上げた。
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星月夜(プロフ) - 空桜さん» コメントありがとうございます！！ドキドキしていただけてとっても光栄です！ 嬉しいです〜！ これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします〜！ (2020年2月2日 10時) (
レス) id: a4d6640b48 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 四年生との絡みが一番好きです(*´-`) これからの展開が読めなくて毎回ドキドキしながら読ませてもらってます (2020年2月1日 20時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年10月22日 13時
