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(……これ、は)
苦無を拾い上ようと走った勢いのまましゃがみ、砂の上をザザザと滑れば、手に取った苦無が上手くつかめず、その上立ち上がれなくなった。
ピリピリと、指先に痛みとも少し違う違和感が走る。
(痺れ薬か…… やられた！)
甲斐丸は先程、戦いの最初に男の手裏剣や苦無に切りつけられたのを思い出した。 思わず切られた左腕を見るが、傷は浅いようで既に血は凝固して止まっていた。
少なからず自分も薬への耐性があったはずなのに。 甲斐丸は眉間のシワを深くさせた。
「時間、切れ……」
そういう意味だったのか？ 焦点の定まらない目でそう呟き、苦無を握りしめて立ち上がるが、甲斐丸はその場に佇むだけで精一杯だった。 思わず建物の壁に寄りかかる。
体の至る所がジンジンと痛む。 体が頭で思った通りに動いてくれそうもない。 きっと暫くはこの状態が続く。 だからもしも追いついたところで、自身はまともに戦えやしないだろう。 その事が容易に分かってはいた。
分かってはいたのだが、甲斐丸の体の中では未だ、ぼこぼこと沸騰した血が巡り続けている。 息遣いも獣のように荒いままで、普段からは考えられない程の明け透けな"殺意"が甲斐丸の瞳の中で鈍い光を放っていた。
────全部、全部関係ない。 あの男を追いかけろ。
渇望。 まるでその囁きには、その言葉が相応しいように甲斐丸は感じた。 それと同時に、甲斐丸は足を踏み出した。
走り出そう。 今すぐに。
そう思った瞬間だった。 甲斐丸は再び一歩踏み出したものの、突然ハッとして足を踏みしめるように止めると、門の方を振り向いた。
なんだか、耳をすませなくてはいけない気がしたのだ。 行かなくてはいけない気がしたのだ。 其方に。
「お前たち！ 痛い目見たくなかったら大人しく拘束されろ！」
「うわあぁっ！」
「おい！ ッあ〜大人しくしろというに！」
少し遠くから、よく通る小平太と、留三郎の声が聞こえてきた。 どうやら敵を拿捕しているらしい。 するとそこへ、滝夜叉丸が声を飛ばした。
「食満先輩！ 七松先輩！ 駄目です火の手が回りそうです！ コイツらの拘束をしている暇はありません！」
その言葉に目を見開いた。 空を仰げば、夜空の藍を煌々と染める赤。 小火程度だった火の手は、風に煽られ広がっているようだった。
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星月夜(プロフ) - 空桜さん» コメントありがとうございます！！ドキドキしていただけてとっても光栄です！ 嬉しいです〜！ これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします〜！ (2020年2月2日 10時) (
レス) id: a4d6640b48 (このIDを非表示/違反報告)
空桜(プロフ) - 四年生との絡みが一番好きです(*´-`) これからの展開が読めなくて毎回ドキドキしながら読ませてもらってます (2020年2月1日 20時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年10月22日 13時
