【RKRN】白い夜 (ページ45)

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「大木先生、お昼にしましょう」

甲斐丸は辣韮畑でせっせと収穫に勤しんでいる大木雅之助に、少し遠くから声を張り上げた。
その声に、雅之助は顔を上げる。

「わかった！」

彼は大きな声でそう答えて、土まみれの手を振った。その声を聞き届けると、甲斐丸は家の中へと戻り、囲炉裏の前へと座った。
自在鉤にかけられた鍋から落し蓋を取ると、よく味が染み込むまで煮込まれた大根が顔を出す。甲斐丸は、お椀を手に取るとお玉でそれを掬って分けた。

本日は、甲斐丸にとって久々に何の予定もない休日だ。
そのため、彼女と懇意な間柄である雅之助の家に辣韮の収穫の手伝いに来ている。ちょうど今は収穫の季節だ。

「おお、美味そうだ」
「ちゃんと手は洗いましたか？」
「洗った洗った、ほら」

家の中に上がった雅之助が、醤油や魚の焼けた香ばしい匂いに顔をほころばせた。大根を分けながら尋ねた彼女に、雅之助は両手をぱっと上げて見せる。
彼女がそれを確認すると、雅之助は横座に座った。

「甲斐丸お前、帰ってくる度料理の腕が上がってる気がするんだが」
「そうですか。自分では分かりませんが、あれだけ作っていれば当然かもしれません」
「まさか男が……！？」

雅之助が軽く瞳を開いて恐々とした様子でそう訊けば、「有り得ません。食べましょう」と甲斐丸はため息混じりに返答した。
雅之助は安堵の息を吐く。

(男として生活しているというのに、どうやったらその発想になるのだろう)

実際のところ、甲斐丸が最近いつにも増して料理をするようになったのは、学級委員長になったことと、しんベヱが関係している。
学級委員長委員会に入り、学園長のあまりの無駄遣いに気づいた甲斐丸は、それを控えさせるために菓子を手作りするようになった。
それに加え、しんベヱの知っている南蛮の料理にはとても興味をそそられ、レシピを教えて貰い作ってみたりしていたのだ。

(あんなに下手くそだったのにな…… 成長を感じる)

雅之助はもうすっかり父親のような心境である。

「冷めますよ。どうぞ食べてください」
「ああ、いただきます」

しみじみと彼女を見ていた雅之助に、甲斐丸が食べるよう促すと、雅之助は手を合わせた。
彼女も控えめに手を合わせると、それに続く。

「美味い！」

大根を一口がぶりと頬張った雅之助が、目を輝かせてそう言った。その声に、甲斐丸は僅かに口の端を引き上げて微笑むような素振りを見せた。