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「しんベヱにレシピを教えてもらってかすていらを作ったのだ。 おまえ達にもあげよう」
「えぇっ！？ かすていら！？」
「すごい！ いいんですか！」
「ああ」
白谷先輩がかぱりと重箱の蓋を開けると、黄金色のかすていらが甘い香りを放ちながらいっぱいに詰まっていた。 その光景に、ぼく達は揃って瞳を輝かせる。
久作だけは、すぐに我に戻って「きり丸とかにイタズラされたりしてませんよね……？」なんておかしな確認をしていたけれど。
それを不思議に思うぼくと左近を見かねて、
「久作は前、きり丸に手作りのかすていらをもらって、腹を下したことがあるんだ」
と三郎次が教えてくれた。
そういえば先生達と揃って保健室に来たことがあったな、と左近が思い出したかのように呟く。
「安心していいぞ、あの三人は厨に入っていないし、わたしも作る前に手を入念に洗ってある」
白谷先輩がそう言いながらひらひらと両手を見せる仕草をすれば、よかったあ、と久作が安堵の息を吐きながら呟いた。
「では、気を取り直して……」
「いただきまーす！」
「召し上がれ」
四人で一つずつ取って、声を合わせると、ぱくりとひと口頬張る。
「ん〜、美味しいっ！」
「甘くてふわふわで……」
「ほっぺが落ちちゃいそう〜」
三人は息ピッタリに感想を言ったけれど、ぼくは乗り遅れてしまって、少しわたわたしながらも、美味しくて美味しくてたまらずもう一口食べた。
「四郎兵衛、美味しいか？」
そんなぼくを見兼ねて、隣に座り、頬ずえをつきながら先輩はそう尋ねてきた。 ぼくは勢いよく振り返って、はい！ とはっきり返事をする。
「美味しいです、すごく……」
「そうか、それはよかった」
そう言って柔らかな眼差しでぼくの瞳を見つめながら、たんとお食べ、とまるで母親のようなことを言うものだから、少し笑っちゃいそうになった。
白谷先輩が、一度深く瞬きをした。 どこか満足げでいて、眩しそうに。 その後、ゆっくりと瞼を持ち上げると、再びぼくらへと視線を戻した。
その瞬間、あれ、と。 急に違和感を感じる。
「……白谷先輩」
「ん、どうした」
「何か、ありましたか」
ぼくがそう訊くと、白谷先輩はふっと瞳だけを細めて、ぼくの頭を優しく撫ぜた。
「何にもないよ。 どうして？」
その一等甘露な声色に、ぼくは、ただの気の所為だったと悟った。
「−−いえ、気の所為だったみたいです」
そう告げて、かすていらの最後のひと口を口に放り込んで咀嚼し、嚥下した。
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作者名：星月夜 | 作成日時：2019年2月3日 19時
