【RKRN】白い夜 (ページ37)

今日:29 hit、昨日:7 hit、合計:12,369 hit

＊ページ37

「お待たせしてしまいすみません、お客様。どうぞ、こちらへ……」

勘定を終えた客を見送り、机を綺麗に片付けた甲斐丸が、列の一番前にいる客に向かってそう言った。
そうしてから、なにか思うところがあるかのように、その五人の客の顔をじっと見つめてから、ふっと瞳を細めた。

「なんだ、やはりおまえ達か」

そうして放たれた言葉に、五人の男たちは大袈裟に心臓をどきりと鳴らした。

「な、何を言って……」
「繕っても無駄だ、尾浜」
「なあんだ、もうバレてしまいましたか」

甲斐丸の揺るぎない口調に、やれやれ、と観念したかのように中年の男の顔を貼っつけた三郎が言った。
この場で変装をとくわけにもいかず、ほかの四人もそれぞれ項垂れるような反応を見せる。

「早すぎますよ……」
「どうしてわかったんですか」

八左ヱ門が溜息を吐く。
そこを五年い組火薬委員会委員長代理の久々知兵助が、冷静に首を傾げて甲斐丸に尋ねた。
こっちだ、と席に五人を案内しながら、甲斐丸は答える。

「瞳だ」

そう、具体的なのに、どこか曖昧さを醸し出しながら。
三郎と雷蔵は、この答えが返ってくることをすっかり予想していた。何故なら、二人も前に聞いたことがあるからだ。
瞳、と兵助は言葉を反芻させる。そうして、もう一度問いかけようとした時に「あっ」と聞きなれた声が聞こえて口を噤んだ。

「五年生の先輩方もいらっしゃったんですね！」
「き、きり丸まで！どうして分かったんだ！」
「いや、会話が聞こえたんで」

厨からうどんをお盆に乗せて出てきたきり丸が、そう言いながら客にそれを出すと、五年生全員が綺麗にずっこけた。

「それにしても、大繁盛ですね～」

いち早く立ち上がった勘右衛門が、苦笑しながらもそう言った。ああ、と甲斐丸が頷いて、ひとつの机を指した。

「わたしも驚いている。それにまさか、おまえ達まで来るとは」
「まで？」

雷蔵が、甲斐丸の言い草に目敏く反応する。すると、甲斐丸は視線を通路越しの机へとやった。

「よく来たなお前達！先に邪魔していたぞ！」
「見事に全員揃って。お前達も甲斐丸のバイト姿が気になって来たのだろう？」

どわーっ！五年生は息をぴったりに、もう一度華麗にひっくりがえってみせた。
全員の視線の先には、既に何杯もうどんを頬張っている六年生の姿があったのだ。

(なんだこの人たち、暇かよ……)

三郎は心の中で悪態をつく。