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微笑み合いながら弾んだ声で話す四人を、甲斐丸は柔らかな瞳で見つめていた。
ふとその時、ブルルルル、と甲斐丸の隣にいる天狼が派手に鼻を鳴らして足踏みをする。
ああ、はいはい。 と甲斐丸は乾草を取り出すと、それを天狼に食わせてやった。
「……あの、最初に聞きそびれてしまったのですが、その馬は……?」
彦四郎が天狼の様子を見ながら、遠慮気味に聞いてきた。
「わたしの馬だ。 名前は天狼。 雄で、今年八歳になる。 一平は見たことないか? 世話ができない日は生物委員会で見てもらっているから」
「え、えっと、……ボクは見たことありませんが、でも確かに、竹谷先輩が伊賀崎先輩に天狼の餌やりを頼んでいたのを覚えています」
素敵な名前でしたから…… と一平が小さく告げると、天狼は機嫌良さそうに凛々しい顔つきで一平を見つめていた。
その様子に、おや、と甲斐丸は物珍しそうに目を細める。
( か、かっこいい〜! )
美麗な青い眸子に、たちまち四人とも惚れ惚れとした面持ちで天狼を見た。
「天狼、一平のことが気に入ったようだ」
甲斐丸が天狼を撫でながら、少し驚いたように言う。 でもその口調は穏やかだ。
「えぇっ!? ボク!?」
「一平すごい!」
「彼は気難しいのに、すごいな一平。 よく動物に好かれるだろう」
「い、いえ、そんな……」
「そんなことあるよ!」
甲斐丸は、余程自分の馬と後輩の距離が縮んだのが嬉しいのか、普段あまり見せないような、眉からふわっと力を抜いた気の抜いたような表情を浮かべていた。 そうして、この場にはいない天狼にすっかり懐かれない人たちのことを思い出して、口を開く。
「彦四郎の言う通りだ。 そんなことあるさ。 実はな、どうして竹谷が孫兵に天狼のことを頼むのかというと、彼奴、どうしてか天狼にひどく嫌われているのだ」
「えっ! ほんとうですか?」
「ほんとうだ。 あぁほら、竹谷と言っただけでこんなにも嫌そうな顔をしている」
甲斐丸の声に、全員が天狼へと視線をやれば、瞳を細めて何処か遠く彼方へと目線をやっている。 名前さえも聞きたくないようだ。 その様子に、四人はくすくすと笑う。
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作者名:星月夜 | 作成日時:2019年2月3日 19時