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( ……似合っている、か )
甲斐丸は立ち上がり、角を曲がる2人の姿を確認すると、再び食堂へと足を進めた。
なんとなく、複雑な心境で。
食堂のすぐ近くまで来ると、献立表の前に三人の人影が見えた。 甲斐丸は、少しも足音を立てずに三人の背後に立つと、声をかける。
「鉢屋、不破、竹谷ではないか」
すると、三人はびくりと肩を揺らして素早く振り返った。 五年ろ組の三人組だ。
「なっ、白谷先輩! 脅かさないでくださ…… って」
「どうされたんですか、その髪型」
目を皿にして驚いた八左ヱ門と、図書委員である不破雷蔵が甲斐丸にそう尋ねてきた。 彼女と同じ委員会の三郎だけは、全てを察したように、ははあん、と言いたげな眼差しを向けていたが。
「斉藤タカ丸にな」
「ああ……」
甲斐丸がただの一言、"斉藤タカ丸" と口に出しただけで、二人も忽ち悟ったような顔つきをした。
「そ、それにしても、まるで町娘みたいじゃありませんか。 勘違いされそうですから早く戻した方がいいですよ」
「む、そうか」
八左ヱ門は手で額を覆い、どこかたどたどしく告げた。 甲斐丸は素直に、それもそうだ、と鏡に映った自身の髪型を思い出していた。
そんな八左ヱ門を見て、三郎は意地悪くも面白そうに鼻を鳴らした。
「八左ヱ門お前、目に毒すぎて直視できないだけだろう」
「は、おま、ちげえよ!」
「はは、どうだかな」
けらけらと笑い始めた三郎に、三郎! と雷蔵が牽制するように名を呼べば、はいはい、と三郎は上っ面だけの返事をした。 ぐぬぬぬ、と八左ヱ門が三郎を睨んでいる。
「そんなことよりも、」
二人を一瞥して雷蔵に向き直った甲斐丸の声に、そんなことなんですか、と雷蔵は八左ヱ門を気の毒に思った。
「また迷い癖か」
「ああ、はい、そうなんです……」
「そうか、時間の許す限りゆっくり選ぶといい」
甲斐丸が落ち着いた様子でそう言うと、雷蔵は「はい」と眉を下げながら笑った。
その様子を見た二人は、一旦いがみ合うことをやめて、まただ、と思う。
( 白谷先輩は、絶対に雷蔵を急かさない )
( 先輩は、いつも雷蔵に時間をとらせる )
献立を見つめる横顔を、三人は静かに見つめていた。
「……A定食にする」
今日のA定食は、麻婆豆腐だ。
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作者名:星月夜 | 作成日時:2019年2月3日 19時